長期実証データから再造林の課題を考える

(岐阜県森林研究所) 渡邉 仁志

森林のたより 2022年6月号掲載



主伐再造林の推進とともにコンテナ苗が紹介されて以来、その性能評価が全国で行われました。しかし、長期間の検証データは少ないのが現状です。郡上市有林(八幡町)の実証試験地は、郡上市と岐阜県の協働により、他所に先駆けて平成23年に造成された、県内で最も古いヒノキ・コンテナ苗の造林地です。調査開始から11年が経ち、初期保育期間を終えたことから、ここでは、継続調査により明らかになったことや今後の課題を報告します。

コンテナ苗の成績は?

苗木の活着率は、通常密度区のコンテナ苗(図の○)で81%、同裸苗(同△)で96%でした。これがはじめての育苗で、品質がまだ安定していなかったのかもしれません。十一年生時の平均樹高、平均胸高直径は、コンテナ苗でそれぞれ7.2mと10.3cm、裸苗で7.0mと9.4cmでした(図の○と△)。いずれも前者の方が大きく、コンテナ苗もしっかり成林すること、裸苗と同等以上の性能を有することが分かりました。現在は、品質が安定し、植栽後の成長がより早い育苗条件を探索しています(本誌814号などを参照)。

食害の影響はみられたか?

試験地の防獣柵は倒木などにより何度も破損しました。2年生時には、約半数の調査木の梢端がシカに食べられました。壊れた箇所はすぐに修理しましたが、シカの生息密度が高いため、わずかな期間に被害が大きくなりました。しかし、多くの被害木は新しく芯が立って回復し、健全木と樹高や樹形の差はみられなくなりました。つまり、食べられた回数が少なければ、その影響は小さいと考えられます。これは被害を受けても諦めずに見回りと補修を続けた成果だと思います。事業地ではそのためのコストをどうするかが課題で、現場にあわせた対策が必要です。

   

下刈り省略の影響はどうか?

植栽後5年間の下刈りを完全に省略した場合の成長を、下刈りをした場合と比較しました(詳しくは本誌805号で報告)。省略区では、シロモジなどの低木性種が衰退しませんでした。その結果、ヒノキの肥大成長は抑制され、直径は細いままでした。適切な時期の下刈りが、やはり必要だと考えられました。現在、現地の状況(雑草木の種類や量)にあわせた下刈り頻度やスケジュールに関する調査研究を進めています。

植栽密度の影響はあったか?

通常密度(3000本/ha)区と低密度(1000本/ha)区の成長を比較すると(図の○と●)、樹高成長には違いがありませんでした(図のa)。しかし、低密度区では一本あたりの樹冠面積が拡大し、肥大成長が促進されたため(図のb)、単木材積が大きくなった半面、林分全体の材積は本数相応に少なくなりました。材積を重視するならば、植栽本数を再考した方がよいし、質を問題にするならば、材質や強度に及ぼす影響の長期的な検証が求められます。
また、9年生時において、通常密度区では林冠の閉鎖後2〜3年が経っていましたが、低密度区では、本数が少ないため樹冠面積の合計が小さく、閉鎖したばかりのようでした(図のc)。林冠閉鎖の遅れは、下刈り期間が延びる以外にも、地面の露出期間が長くなるため林地保全上の観点からも問題だと考えられます。現在、他の造林地でも林冠の閉鎖時期に関するデータ収集しています。

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本試験地の実証データから、確実な再造林に向けて、苗木の改良、目的にあわせた植栽密度、獣害対策、適切な下刈り時期などの課題が抽出できました。これらをもとに、岐阜県にあわせた再造林技術をひとつひとつ開発しています。

  
図 実証試験地の樹高(a)、直径(b)、および樹冠面積の合計(c)の推移
図 実証試験地の樹高(a)、直径(b)、および樹冠面積の合計(c)の推移