下刈りを省略した場合のヒノキの人工林を考える

(岐阜県森林研究所) 渡邉 仁志



はじめに

木材生産を目的とする一斉人工林の造成にとって、下刈りは大変重要な作業である半面、経費負担や従事者の肉体的負担が大きい作業でもあります。確実な再造林のためには、下刈りを省略しつつ、植栽木の成長や雑草木の性質に即した方法で実施する必要があります。それでは、下刈りを省略したとき、ヒノキの成長にはどんな影響があるでしょうか。
  ここでは、その最も極端な事例として、一度も下刈りをしなかった場合の雑草木の状態やヒノキの成長経過について報告します。

雑草木からの被圧の状態

郡上市八幡町の再造林地に、根鉢容量300ccのヒノキ二年生コンテナ苗を植栽し、植栽後の下刈りを5年間省略した「省略区」と、年1回ずつ5年間行った「実施区」の状態を比較しました。
  造林地の雑草木には低木性種(シロモジやキイチゴ類)が多く、高木性種(アカメガシワ、アオハダ)はわずかでした。また、ヒノキの梢端が雑草木に覆われた状態(上方被圧)は、両区とも早々に解消されました。   しかし、雑草木の高さや量は、実施区では小さくなっていった一方、省略区ではどんどん大きくなり、同時に雑草木による横方向からの被覆(側方被圧)の程度は急速に高くなっていきました(図1)。

     
図1 植栽木の側方被圧方位数の推移
図1 植栽木の側方被圧方位数の推移

ヒノキの成長への影響

省略区では、雑草木の被圧によって枯れた植栽木はありませんでした。また、省略区の樹高は、実施区と同等以上であった(図2a)ため、たとえ下刈りを全くしなくても、ヒノキの伸長低下にはつながりにくいと考えられました。
  これに対し、根元直径は植栽3年目以降に実施区の方が大きくなり、その差は年々拡がっていきました(図2b)。その結果、省略区の植栽木は間伐が遅れたときのように細くひょろひょろになってしまいました。 省略区では、引き続き雑草木の高さや量が増加しているため、ヒノキと雑草木との横方向の競争が今後も続くと予想されます。このことから、下刈りの省略は、ヒノキの肥大成長に対して強い影響を及ぼすことがわかりました。

     
図2 植栽木の成長経過
図2 植栽木の成長経過

おわりに

このように、実際の事業地における下刈りの完全省略は現実的ではありません。したがって、雑草木との競争が本格的になる前に、現場にあった効率的な下刈りを計画する必要があります。
  その適切な頻度やスケジュールをご提示できるよう、植栽木に対する下刈り省略の影響を引き続き観察していきたいと思います。