ヒノキ実生コンテナ苗の成長特性を考える

(岐阜県森林研究所) 渡邉 仁志



はじめに

確実な再造林を低コストで行うため、「成長に優れた」コンテナ苗に期待が寄せられています。しかし、全国調査の結果、通常のコンテナ苗には、裸苗に対する成長の優位性が認められませんでした。 当所では、これに対し、育苗時の1年と植栽後の1年にわたり効力がある肥料(以下、超緩効性肥料)で育てたヒノキ実生コンテナ苗によって、植栽後の成長促進と下刈り期間の短縮ができる可能性を示しました(本誌七九二号参照)。
  これは一調査地だけの結果でしたが、ヒノキ実生苗のより一般的な成長特性を把握するため、ここではさらに岐阜県下の複数の調査地の結果をまとめて評価しました。

データをたくさん集めた

関係機関との連携のもとに設定した調査地から、植栽時期や被陰の影響を除外するため、4〜5月に植栽され、期間中は下刈りが実施された(または不要だった)調査区のみを抜き出しました。 そのうえで、苗を裸苗(以下、B群)、標準コンテナ苗(C1群)、超緩効性肥料を元肥として育てた改良コンテナ苗(C2群)に分け、13調査地67調査区における約4200本分のデータを用いて、植栽後二年間の生存率と成長を苗群ごとに比べました。

コンテナ苗の成長特性は?

生存率は、概ね80%以上でしたが、B群には50%程度と特に低い調査区がありました。植栽時や直後の気候条件が影響したようです。また、苗群間の平均生存率を比較すると、B群=C1群<C2群の傾向(統計的な差、以下同じ)がありました。 つまりC2群の苗は、植栽初期に枯死しにくかった可能性があります。
  枯死木や損傷木を除いて解析すると、植栽時のC2群は、樹高においてC1群より、根元直径において他の苗群より小さい傾向がありました(図1a)。しかし、成長量は、樹高、根元直径ともに他の苗群より明らかに大きく、結果として、植栽2年後のC2群は、根元直径ではC1群より、樹高では他の苗群より大きくなりました(図1b)。 一方、C1群にはこの傾向がみられませんでした(図1a、b)。
  標準コンテナ苗の成長が裸苗と同等以下であったため、この結果には根鉢の有無よりも、育苗時に与えた肥料の種類の方が強く影響したと考えられます。このことから、一般的な傾向として、育苗時に超緩効性肥料を与えたヒノキ実生コンテナ苗は、他の方法で育てた苗より植栽初期の成長が優れていることが分かりました。

     
図 苗群ごとの植栽時(a)と2年後(b)のサイズ
図 苗群ごとの植栽時(a)と2年後(b)のサイズ
箱の横線は中央値、箱は四分位範囲、ひげの両端は箱の1.5倍以内の最小値と最大値、○ははずれ値を記す。
異なるアルファベットは統計的な有意差を示す。

おわりに

この超緩効性肥料を用いた育苗方法を、私たちはこれまでに種苗生産者に対して移転してきました。その結果、岐阜県内で生産されるヒノキのコンテナ苗は、現在、植栽後の成長にも配慮されたものが多くなっています。今後この技術が、下刈りの省力化技術とあわせて、再造林の推進に貢献できることを期待しています。