毒きのこ(3)
−きのこにまつわる迷信−

(岐阜県林業センター)井戸好美


 そろそろきのこ狩りのシーズンになりますが、恐いのがきのこ中毒です。昨年度のきのこによる食中毒発生件数は一件と少なかったが、愛知県では留学中の中国人夫婦と子供の合わせて三人が、ドクツルタケを食べて婦人と子供が死亡するという事件も発生しています。
 本報でもすでに1990年9月号1992年9月号に毒きのこについて数種紹介しています。そこで今回は毒きのこ(ハナホウキタケ)を紹介すると同時にきのこにまつわる迷信についても検証します。

■ホウキタケ類
 きのこと呼ばれるものの中で、きのこらしくないものにホウキタケ類があります。俗称として「ネズミタケ」と呼ばれ、そうめんやサンゴ形をした見つけやすいきのこです。この仲間は夏から秋にかけて雑木林などに生えています。
 昔は「おいしい、きのこで毒はないから安心して食べられる」と言われていましたが、以下の二種類には注意を要します。

■ハナホウキタケ
 全体の色は赤味が強く、先端はやや淡い。食用のホウキタケに比べて茎は細く、根元からすぐに枝分かれします。

■キホウキタケ
 このきのこは全体の色が黄色で、形はホウキタケに似ています。
 これら二種類のきのごはそのまま食べると必ず下痢などを起こし易いので注意して下さい。

ハナホウキタケ
ハナホウキタケ
キホウキタケ
キホウキタケ

写真は「今関六也・大谷吉雄・本郷次雄(1988)日本のきのこ.株式会社 山と渓谷社」より



日本産の主な毒きのこ
症状の分類名称症状
コレラ症状〜死亡シロタマゴテングタケ
ドクツルタケ
肝臓、腎臓の細胞を壊し、致命的。激しい嘔吐、下痢、腹痛を起こす。症状が現れるのに6〜10時間かかる。
致命的ニセクロハツ吐き気、嘔吐、下痢の症状が現れる。
消化器系統イッポンシメジ
カキシメジ
クサウラベニタケ
ツキヨタケ
ニガクリタケ
ハナホウキタケ
主に消化器系に作用し、食後30分〜3時間程度で発症する。
消化器+神経症状テングタケ
ベニテングタケ
消化器系及び神経系の両方に作用し、幻覚、錯覚、嘔吐、下痢を起こす。食べた量によっては危険。
幻覚オオワライタケ
ヒカゲタケ
幻覚、興奮、寒気、手足や舌のしびれ症状を起こす。発現はかなり早い。(食後30〜60分)
酒との桔抗ホテイシメジ
ヒトヨタケ
アルコールと共に食べると頭痛、嘔吐、目眩を起こす。きのこを食べて2〜3日後に酒を飲んでも発症する。

表は「生出智哉他著(1993)きのこ狩りの極意書」、「今関六也他編・著(1988)日本のきのこ」を参考に作成



◎きのこにまつわる迷信
 きのこには昔からよく言われている迷信が根強く残っており、これを解消していかないことには、きのこ中毒は増えることはあっても減ることはありません。
 そこで、よく言われている迷信について検証してみます。

【縦に裂けるきのこは食用となる】
 これも広く流布している迷信の一つでその悪影響は誠に大きい。
 毒きのこの中で縦に裂けないものはニセクロハツだけで、後のツキヨタケ、クサウラベニタケなどは収量も多く、縦によく裂け、中毒例が多い。
 また、逆に食用きのこの中にも縦に裂けないものもあります。

【ナメクジや昆虫が食べているきのこは食べられる】
 ナメクジや昆虫と我々人間とは体の構造が全く違っており、根本的な事実を無視した俗説です。

【ナスと一緒に料理すると、毒きのこが混じっていても中毒は起こらない】
 ナスときのこの相性はいいかも知れませんが、ナスに毒消しの効力はありません。

【煮汁に銀のスプーンを入れて、黒変しないものは食べられる】
 ヨーロッパで言われる鑑別法ですが、きのこの毒成分で黒変するものはなく、全く間違った鑑別法です。

【色が地味なきのこは食べられる】
 日本産の毒きのこの中で、色が鮮やかなものはベニテングタケだけであり、後の毒きのこは褐色、茶褐色、黒褐色と地味な色をしています。
 また、食用きのこの中にも色鮮やかなオレンジ系のマスタケ、アカモミタケ、黄金褐色のコガネタケがあり、色による判別は当てにはなりません。

【いい臭いのするきのこは食べられる】
 全体的に毒きのこと呼ばれるきのこには特別な臭いはありません。
 逆に、食用のキヌガサタケのように異臭を発するものもあり、この迷信は一概に根拠のないものです。

【塩漬けにしたり、よく茹でて水洗いすれば毒が抜ける】
 一部のきのこは塩漬けすることにより、毒を抜くことができます。
 しかし、テングタケ類やツキヨタケは塩漬けをしても、茹でこぼしても毒が抜けることはなく、間違いなく中毒は起こります。

【樹上に生えるきのこは食べられる】
 この迷信はすぐ間違いであることがわかります。毒きのこのツキヨタケ、ニガクリタケなどは樹上に発生するきのこです。

 以上、これらの迷信は明らかに誤った認識であることが分かっていただけたと思います。
 やはり一人一人が毒きのこの特徴を憶えていただくことが一番大切です。

◎もし誤って毒きのこを食べたら
 きのこを食べて吐き気などの症状が出たら、まず食べたものをいち早く吐き出すことです。早期に排出することにより、消化気管への影響を防ぐことが出来ます。
 このように事前に出来る処置を行い、その後専門の医師の診察を受けて下さい。
 今年度は、このような中毒が起こらないことを祈っています。
 きのこの鑑定も当林業センターで行っておりますので、疑問に思われたらお尋ね下さい。


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