野生キノコによる食中毒(1)
(岐阜県林業センター)井戸好美
岐阜県の林業 1990年9月号掲載
●はじめに
本県はきのこの発生に適した環境条件に恵まれていることから、晩夏から晩秋にかけて多くの野生きのこが発生します。しかしその反面、毒きのこによる食中毒が最も多く発生するのもこの時期です。
昭和54年以降県内では、きのこ中毒は発生していませんでしたが、一昨年の昭和63年からまた発生し始め、その年は7件の中毒が報告され、死者も1人出すほどでした。また、昨年の平成元年にも3件の中毒が報告されています。
これらはすべて毒きのこを食用きのこと誤って食べられたものでありますので、毒きのこについて皆さんにも良く知っていただき、楽しいきのこ採取にしてもらうため、当林業センターに問い合わせが多い毒きのこ(ツキヨタケ、ドクツルタケ、クサウラベニタケ)について紹介します。1.ツキヨタケ(シメジ科)
県内における昭和31年からの統計ではきのこ中毒全体の44%がこのきのこによるものであり、全国的にも最も多い中毒例を示すきのこです。
ツキヨタケ
ブナなどの倒木・枯木に発生するきのこで形は半円形又は腎臓形を示し、柄は短く、ひだに発光性があり、暗所では青白い光を放ちます。
中毒症状としては、胃腸障害型で間違って口にしますと30分〜2時間以内に嘔吐・腹痛など症状が現れます。
このきのこの鑑別法としては、写真のようにきのこを縦に裂くと茎の根元の肉質に紫黒色の斑があることから判別ができます。
写真は「今関六也・大谷吉雄・本郷次雄(1988)日本のきのこ.株式会社 山と渓谷社」より
2.ドクツルタケ(テングタケ科)
県内で唯一死者を出したきのこがテングタケ属のドクツルタケです。
ドクツルタケ
このきのこは全体的に白色で写真のように柄の上部にツバがあり、根元には袋状のツボがあります。
中毒症状としては食してから6〜8時間後に、嘔吐、下痢、腹痛、倦怠感が非常に強く現れ、場合によっては死にいたることもあります。
同じ仲間にはシロタマゴテングタケ、タマゴテングタケなどの猛毒のきのこが多く、死亡率は非常に高いものです。
鑑別法として、このきのこの仲間は殆どが柄にツバと根元にツボを持っています。しかし、ツボに関して地中に埋もれているため掘って確認する必要があります。このようにツバやツボがあるものは危険度の高いきのこが多いので、食べない方がよいと考えられます。(但し、例外としてタマゴタケ、ツルタケなどの食用きのこもあります)
写真は「今関六也・大谷吉雄・本郷次雄(1988)日本のきのこ.株式会社 山と渓谷社」より
3.クサウラベニタケ(イッポンシメジ科)
県内で2番目に中毒が多いきのこです。
クサウラベニタケ
特徴としては傘径3〜5cm・柄の長さ5〜10cmの大きさで、写真のようにひだは紅色を呈していることから食用のホンシメジやウラベニホテイシメジなどと間違えやすいきのこです。
中毒症状としては腹痛、嘔吐、下痢等の胃腸障害を起こします。
鑑別法としてはホンシメジ、ウラベニホテイシメジでは柄が中実であるのに対し、クサウラベニタケは柄が中空程度の差で、区別が難しいので注意を要します。
写真は「今関六也・大谷吉雄・本郷次雄(1988)日本のきのこ.株式会社 山と渓谷社」より
●まとめ
上記3種類のはかに毒きのことして、タマゴテングタケ、シロタマゴテングタケ、ベニテングタケ、テングタケ(テングタケ科)、ドクササコ、カキシメジ(シメジ科)、イッポンシメジ(イッポンシメジ科)、ニガクリタケ(モエギタケ科)、キホウキタケ(ホウキタケ科)などがあげられます。これらの毒きのこについては別報で報告します。
わが国では毒きのこが50種ほど存在しており、これらの毒きのこと食用きのことの判別は非常に難しく、古来からの鑑別法で安易に決めつけずに“わからないきのこもしくは疑わしいきのこは絶対に食べない”ことを認識して、安全にきのこ採取を行ってください。
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