アミラーゼによる原木シイタケの発生を高める技術開発の可能性

(岐阜県森林研究所) 上辻 久敏

森林のたより 2025年2月号掲載



はじめに

県内の食用キノコ生産者は栽培資材や原木、燃料の高騰、産地間の競争激化により厳しい経営状況にあります。そのため、菌床栽培で「アミラーゼ(酵素)」を用いた増収技術を開発してきました。マイタケではアミラーゼを添加する以外は生産工程を変更することなく従来の生産施設で増収効果を実証することができました(図1)。
  今回菌床だけでなく原木シイタケ生産でもキノコの発生量を増加することができるのかアミラーゼ増収試験を行いました。その結果、原木シイタケでもアミラーゼで増収することが分かりましたので紹介します。

    
図1 アミラーゼで増収したマイタケの様子(※無添加と比較して3割増加)
図1 アミラーゼで増収したマイタケの様子
(※無添加と比較して3割増加)

アミラーゼの働き

アミラーゼは、消化酵素の一種でハサミのような働きをします。エネルギー源となるご飯やパンなどに含まれるデンプンを切断することで、消化を助ける作用があり、人の唾液にも含まれています。食品産業では、生産性向上、発酵促進等の目的に食品添加物として様々な加工に利用されています。キノコの菌床に添加した場合は菌床の多糖を菌が吸収しやすい状態に変化させていると考えています。

アミラーゼの使用について

キノコの増収には培地組成や培養条件の改良、品種の変更などが行われていますが、生産者には生産条件を大幅に変更することはリスクを伴います。反面、アミラーゼの利用は、栽培用の培地(菌床)を製造する過程で培地資材に水を加えて攪拌する際に合わせて添加する簡易なもので、生産条件の大幅な変更を伴いません。しかし、原木では菌床製造工程がないので、効果を確認する第1段階として培養したシイタケ原木にアミラーゼの添加を試みました。

施設での試験方法

原木シイタケ栽培では、菌床製造の際、ミキサーによる攪拌工程がない代わりに、培養したシイタケ原木を発生させる前に浸水する工程があります。約180本分の培養原木を1日浸水し、原木あたりのアミラーゼ添加量を統一するため、浸水から引き上げた直後の原木にアミラーゼの添加を行いました(図2)。アミラーゼの原液を250倍に希釈して接種穴あたり注射器で0.5 mlを添加し、約4日間シートで覆った保温(乾燥防止)環境で培養後、発生用ハウス内に原木を展開しました。添加したアミラーゼは、添加後常温でゆっくり働きます。処理効果はアミラーゼ添加の有無による原木から発生するシイタケの発生量と大きさの分布について比較しました。

      
図2 原木シイタケ生産施設での試験
図2 原木シイタケ生産施設での試験

試験結果

今回の試験により、アミラーゼを添加することで原木シイタケの発生量を36%増加することが分かりました。シイタケの傘の大きさ比較では、商品価値の高い6, 7 cmのサイズのシイタケが増加していました(図3)。今回の試験では、原木シイタケ生産におけるアミラーゼの効果の有無を確認するため、1本あたり約50個ある接種穴にアミラーゼを添加しました。今後は、大量の原木にアミラーゼを効率よく添加する条件を明らかにし、技術の実用化を目指していきます。

    
図3 アミラーゼ添加の有無による原木シイタケ発生の比較
図3 アミラーゼ添加の有無による原木シイタケ発生の比較