ヒノキ枝虫材を用いた接着重ね材の試作と強度性能

(岐阜県森林研究所) 田中 健斗

森林のたより 2024年12月号掲載



はじめに

当所では、大径化するヒノキの用途拡大のため、強度性能に優れる丸太の外側から心去り正角(髄を含まない正方形の材)を製材し、貼り合わせた接着重ね材の開発と性能評価を行っています。
  心去り正角を製材するということは、必然的に使用する丸太は大径となり、高強度ではありますが、コストを考慮すると採算を合わせるのが難しいのが現状です。
  そこで、一般的に多く製造されているヒノキ心持ち柱角から出現する枝虫材を活用し、2本貼り合わせた接着重ね材について、曲げ強度試験を行いましたので、その結果を報告します。

心持ち正角接着重ね材の試作

心持ち正角接着重ね材の試作にあたり、飛騨地域の製材所から材料を提供いただきました。寸法は120o×120o×3,000o、105o×105o×3,000oで、各寸法24本を使用しました。
  この材料は、製材、乾燥後、モルダー加工、グレーディングまで行った機械等級構造用製材ですが、節付近の害虫の食害により、いわゆる「枝虫材」としてはねられたものでした。
  この材料を、強度等級が同じもの同士で組み合わせを決定し、接着剤をローラーで手塗り(写真1)し、コールドプレスで接着を行いました(写真2)。接着剤は集成材用に使用される水性高分子-イソシアネート接着剤を使用しました。接着の際、できるだけ最も虫食いが発生している面同士を貼り合わせました。
  完成した重ね材は120o×240o、105o×210oとなり、それぞれ12体ずつ製造しました。

    
写真1 接着剤の塗布 写真2 コールドプレスにより圧締
写真1 接着剤の塗布 写真2 コールドプレスにより圧締

試作した心持ち正角接着重ね材の曲げ強度試験

試作した接着重ね材は、実大曲げ強度試験機を用いて曲げ強度試験を実施しました。試験体は断面が縦長となるよう設置し、試験体が破壊するまで加力しました。試験の結果から、壊れにくさの指標である曲げ強さと、たわみにくさの指標である曲げヤング係数を算出しました。

試作した心持ち正角接着重ね材の曲げ強度試験結果

図1に試作した心持ち正角接着重ね材の曲げ強度試験の結果を示します。無垢製材品と同様、曲げヤング係数と曲げ強さの間には相関がみられ、曲げヤング係数が高いほど曲げ強さも高くなる傾向がみられました。
  今回の試験では、多くの試験体が繊維方向と平行に破壊するせん断破壊と呼ばれる挙動を示しました。この破壊は試験標準条件(材高さの18倍、それぞれ3780mm 、4320mm)に対して材長が短かったり、材の内部割れなどの断面欠損から起きるとされています。
  しかし、接着重ね材のJAS規格の基準の曲げ強さと曲げヤング係数は1体がわずかに満たさなかったのみで、その他の材はすべての材で基準を十分に満たしていたことから、材料の内部割れ等による強度低下の影響は小さいと考えられました。
  なお、すべての材で接着層を起点として破壊が起きているものはなく、虫食いが発生している面同士を貼り合わせたことによる接着不良の事例は確認されませんでした。

    
図1 曲げ強度試験の結果
図1 曲げ強度試験の結果

おわりに

今回の試作品の曲げ試験の結果から、接着重ね材のJAS規格の基準を満たすものを製造することは可能であると考えられました。しかし、今回の試験では曲げ破壊した材料は少なく、曲げ強度性能を議論するには試験体数が不足していると考えられます。さらに詳細な検討を行うためには、曲げ破壊した試験体の強度データの蓄積を進める必要があります。
  また、虫食い面同士を貼り合わせることにより、今まで欠点材としてはねられていた材に付加価値を生み出すことができる可能性が考えられました。大断面材需要への対応、欠点材の有効利用を見据え、今後も接着重ね材に関する課題に取り組んでまいります。