(岐阜県森林研究所) 水谷 和人
森林のたより 2024年11月号掲載
国内で流通するトリュフは、すべてヨーロッパや中国などから輸入されています。我が国にもヨーロッパのものとは別種のトリュフが自生しており、それらを用いた国産トリュフの栽培技術の確立が望まれています。
昨年の令和5年10月、国内で初めて人工的に国産黒トリュフを発生させることに成功しました。この成果は多くのマスコミに取り上げて頂きましたが、ここであらためて詳細を紹介します。
平成28年4月、苗畑において、赤玉土と鹿沼土を混合した土壌を約15cmの厚さに敷き詰め、対照区(石灰無施与区)と石灰施与区を設定しました。同年4月と7月に、苗高約80cmのコナラの根を、国内で採取した黒トリュフをミキサーで粉砕した懸濁液に浸漬して、各試験区に14本ずつ植栽しました。試験区は石灰施与の有無と植栽時期別に4種類で、無施与・4月植栽区、無施与・7月植栽区、石灰施与・4月植栽区、石灰施与・7月植栽区です。
植栽後4年目と8年目に、試験区ごとに穴を堀り、根ごと土壌を採取して、トリュフの菌根の有無を確認しました。菌根菌は樹木の根にくっついて菌根を形成し、土壌中に菌糸を広げて育つキノコであることから、菌根の状況で土中のトリュフの菌の増殖具合が評価できます。
石灰施与・4月植栽区および7月植栽区には、黒トリュフ特有の菌根が確認でき、石灰を施与した試験験区でトリュフが順調に増殖していることがわかりました(図1、表1)。一方、石灰を施与していない無施与区にはトリュフの菌根は確認できませんでした。
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図1 菌根の形成状況(8年目) 棍棒状の根がトリュフの菌根(矢印) |
表1 菌根の形成状況 |
コナラを植栽して7年が経過した令和5年には、植栽したコナラは、大きなもので樹高6mを超えました(図2)。その年の10月、石灰施与区の地表面に黒トリュフが2個(重量は23gと38g)発生しました(図3)。発生したキノコと植栽したコナラ苗木に接種した菌を、森林総合研究所の協力で遺伝情報(DNAマーカー)に基づいて照合したところ、発生したキノコはアジアクロセイヨウショウロで、接種した菌と遺伝的に同一であることが明らかになりました。これにより、国内で初めて人工的に国産黒トリュフが発生したことが科学的にも確認できました。
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図2 植栽8年目のコナラ | 図3 発生したトリュフ |
今回、黒トリュフが発生するまでに、コナラを植栽してから7年半を要しました。今後も発生の推移を継続調査するとともに、栽培の実用化に向けて、黒トリュフ発生の再現性の確認や、短期間で安定的に発生させる技術開発を進めます。