シイタケ発生への気温上昇の影響を理解して栽培管理に役立てる

(岐阜県森林研究所) 上辻 久敏

森林のたより 2024年6月号掲載



はじめに

近年全国的に気温が上昇し、岐阜県でも40℃を超える気温が観測され、様々な農作物への影響が危惧されています。
  岐阜県のキノコ主要品目であるシイタケは、外気温の影響を受けやすいビニールハウスで栽培されており、その多くは冬場の暖房はあるものの、夏場の冷房がない施設が大半を占めます。
  このような状況下、夏場の気温上昇が原因と考えられるシイタケの発生低下トラブルが起きています。
  現状では夏場の栽培管理方法が確立されておらず、対策は各生産者の経験任せとなっています。生産者からは、トラブルの原因究明と有効な対策が求められています。

夏場の温度上昇がシイタケの発生に与える影響

夏場の栽培トラブルの原因が温度上昇と仮定し、培養後期の除袋前の菌床を用いて、人工的に暴露温度を変化させ発生への影響を試験しています。除袋直前の菌床に対して暴露温度は3℃間隔で36℃まで、暴露時間を1日、3日および5日に設定しシイタケ発生への影響を調査しました。
  その結果、36℃で5日間暴露処理をした場合は、3品種中2品種は発生せず、残りの1品種も発生量が減少しました。
  施設の高温状態が数日間継続される場合だけでなく、気温が高い日に生産施設の温度が一時的に36℃以上となる可能性もあります。
  そこで、15分間の暴露時間で発生に影響する温度についても調査しました(図)。
  除袋直後の菌床を用いて、21℃から61℃まで5℃間隔で温度を上昇させた結果、36℃までは、通常どおりシイタケが発生しました。しかし、41℃以上では、発生しないかまたは大きく減少することが分かりました。

  
図 15分間の暴露処理温度によるシイタケ発生への影響
図 15分間の暴露処理温度によるシイタケ発生への影響

現地の状況把握も進めています

実験施設での暴露試験と並行して赤外線サーモグラフィーカメラを用いた栽培施設全域の温度分布に関する調査も実施しています。栽培施設内の温度は一定ではなく、温度が上昇しやすい場所が存在しています。
  栽培棚の最上段やハウスの側壁近辺等の条件が重なると部分的に41℃に到達する可能性があると考えられます。
  短時間では発生に影響しない36℃でも5日間暴露処理した場合は、シイタケ品種によって発生が減少または、停止したことから、温度とその暴露時間の組合せが発生量を決める重要な因子であると考えられます。さらに、41℃以上では、短時間でも菌床が暴露されると発生に致命的な影響を受ける品種があることが示されました。

 

おわりに

試験では、5℃間隔で暴露温度を変化させましたので、36℃から41℃の間にも短時間に大きな影響を受ける温度が存在する可能性があります。
  シイタケの温度と時間の影響を科学的に把握し、実際の栽培施設内の温度を効率的に管理するため、生産者と連携しながら散水方法や、遮光等の対策を含めた管理技術を提案し収益向上に貢献していきたいと考えています。