スギ心去り平角材の強度を考える(2)

(岐阜県森林研究所) 土肥 基生

森林のたより 2023年12月号掲載



はじめに

流通するスギ原木の大径化が進んでおり、末口径が40cmを超える丸太も珍しくなくなってきました。このような丸太からは、仕上がり寸法120o×240oの平角材を2丁取り(図1)することが可能ですが、心去り材の強度に関するデータは全国的にも少なく、所定の強度(製材JASの等級ごとに定められた「基準強度」)を有するかについて懸念があります。
  本誌819号では、材面の「節」が心去り材を貫通する場合や、大きな節が平角材の下側に位置する場合などで基準強度を下回ったケースについて紹介しました。
  今回は、平角材の乾燥方法によって発生する「内部割れ」の影響について報告します。

  
図1 平角材2丁取りの木取り例
図1 平角材2丁取りの木取り例

内部割れ発生の危険性

現在、製材工場などでは、スギやヒノキなどの構造材の多くは高温セット処理工程を含む乾燥(以下「高温乾燥」という)が行われています。これは製材の表面を高温セット処理で固めて「心持ち材」に発生する「表面割れ」を抑制するためです。一方で、心去りの場合は製材の木口面に年輪の中心(髄)を含まず、年輪の放射方向に対する割れが起こりにくいため、高温乾燥で製材の表面を固める必要性は低いと考えられます。
  しかし実際には、製材の断面が大きくなると乾燥に時間がかかるため、乾燥時間を短縮する目的で高温乾燥が行われる場合があります。「心去り材」で高温乾燥を行うと「表面割れ」は抑制できますが、過乾燥気味に仕上がると「心持ち材」同様に「内部割れ(図2上)」が発生しやすくなります。この内部割れは「心持ち材」の場合と異なり、割れ幅が大きくなると断面を貫通してしまいます。このような材で曲げ強度試験を行うと、小さな荷重で簡単に「せん断破壊」が生じ、製材が分断されてしまいます(図2下)。

    
図2 内部割れ(上)とせん断破壊した平角材(下)
図2 内部割れ(上)とせん断破壊した平角材(下)

乾燥方法の改良による内部割れの低減

現在、当所では、乾燥工程の途中に「蒸煮処理」を加えることで「内部割れ」を抑制させる方法を検討しています。
  弱減圧乾燥は、高温乾燥に比べて低い温度で乾燥を行うものですが、製材の表面がセット処理され内部割れの危険がある点で高温乾燥と同様の課題があります。図3は、この弱減圧乾燥の途中で「蒸煮処理」を行ったものと、そうでないものの強度試験の結果の比較を示しています。
  橙色の点は蒸煮を行った材料であり、青色で示した点線(基準強度)の上側に位置するものが多く、基準強度以上の強さを有する材が多いのに対し、灰色の点(蒸煮なし)では基準強度を下回る材が多く見られました。基準強度を下回った材の多くは内部割れによる「せん断破壊」が生じていました。
  今回の結果から、「蒸煮処理」を加えたことで「内部割れ」が低減し、曲げ強さの低下を防げることが示唆されました。現在は、この「蒸煮処理」のタイミングや処理時間が最適なものとなるよう試験を継続しています。
  また、今回のデータは弱減圧乾燥によるものですが、通常使われる常圧の高温乾燥でも効果があるかを確認していきますので、また報告する機会を設けたいと考えています。

    
図3 蒸煮の有無による強度試験結果の比較
図3 蒸煮の有無による強度試験結果の比較