養生期間の違いによるヒノキ接着重ね材の接着性能

(岐阜県森林研究所) 田中健斗

森林のたより 2022年9月号掲載



はじめに

森林のたより819号にて、ヒノキ心去り正角を使用した3段接着重ね材を試作し、曲げ強度性能を測定したことについて紹介しました。
 接着重ね材は名前の通り木材を接着剤で貼り合わせた材料であり、接着層の剥がれはクレームや強度低下につながります。接着重ね材の構成材料は集成材のそれよりも大きく、材内部により多くの水分が残されており、水分移動とともに材が変形し、剥がれが発生する可能性があります。そこで、乾燥終了後の養生(材を保管しておくこと)期間の違いによる接着性能について検証を行いましたので紹介します。

接着性能試験の概要

最高乾球温度83℃の中温乾燥を行ったヒノキ心去り正角を表1に示す3条件で養生したのち、木裏同士を木材用接着剤で貼り合わせ、120mm×240mm×約3,000mmの2段重ねの接着重ね材を試作しました。(写真1)両木口から試験片を切り出し、接着重ね材のJAS規格に基づいて浸漬はく離試験、煮沸はく離試験、ブロックせん断試験を行いました。



写真1 試作した2段接着重ね材
写真1 試作した2段接着重ね材               表1 養生の条件
 

接着性能試験の結果

図1に、試験片の接着性能試験の結果を示します。浸漬はく離試験(図1左)ではほぼすべての材で基準を満たし、平均値もすべての条件で同程度の結果となりました。煮沸はく離試験(図1中央)ではどの条件も基準を満たさないものが2〜3割程度見られましたが、平均値は同程度となりました。ブロックせん断試験(図1右)でも、JASの基準値を下回り、強度が低いものが2〜3割程度見られましたが、平均値はどの条件でも同程度となりました。
 以上より、今回設定した養生条件では、どの試験でも同程度の結果となりました。 接着前に構成材料の含水率の測定を行ったところ、どの材でもJASの基準である18%を下回っており、材の内部と表面付近の差も小さくなっていました。このため今回の結果からは3カ月程度の養生により、含水率による接着性能の影響を十分に抑えることが可能であると考えられました。
 今後は、3か月よりも短い養生期間の場合、どのような影響を及ぼすかも検証を行っていく予定です。



図1 接着性能試験の結果
図1 接着性能試験の結果
 

おわりに

今回の結果では、煮沸試験とブロックせん断試験で3割程度の不良材が出たことから、養生期間に関する検討のみでは、JASの基準を満たす接着性能を得ることは難しいと考えられました。 今後は、現在、民間の工場で試作している重ね材の接着性能試験の結果も踏まえて、原因を検証していきます。