キノコの栽培工程で発生する酢酸が菌糸伸長に及ぼす影響

(岐阜県森林研究所) 水谷 和人



〇背景と目的

キノコの施設栽培は、オガ屑にフスマやヌカ類、水等を混合して容器に詰め、高圧滅菌した後に種菌を植えて行います(図1)。現在、施設栽培が行われているキノコは数十種程度ですが、これは数あるキノコのうちのごく一部です。
  シイタケでは、オガ屑の高圧殺菌で発生する酢酸が菌糸伸長を阻害することが報告されていますが、シイタケ以外のキノコについてはよくわかっていません。今後、新たなキノコの施設栽培化を検討するために、キノコの菌糸伸長に対する酢酸の影響について調査を行いました。



図1 ブナシメジの施設栽培状況
図1 ブナシメジの施設栽培状況

〇調査の方法

酢酸の影響は酢酸を加えた寒天培地上での菌糸伸長速度で評価しました。対照培地は改変Maltextract培地とし、酢酸の影響は対照培地に酢酸を0.2ml/L添加することで比較しました。供試菌は主に岐阜県森林研究所で保存しているもので、5o径のコルクボーラーで打ち抜いたものを接種片としました。培養温度は21℃で菌糸伸長速度を測定し、各条件5枚のシャーレの平均値を測定値としました。

〇酢酸添加の影響

キノコは生活タイプによって、木材や落葉を分解して栄養源とする腐生菌(木材腐朽菌や落葉分解菌)、樹木から栄養をもらって共生する菌根菌、生きた植物や動物などから一方的に養分を吸収する寄生菌に分けられます。試験に供したキノコ20属32種のうち腐生菌は14種、菌根菌は15種、寄生菌は3種です(図2)。
腐生菌のうち木材腐朽菌は、酢酸を添加することにより、菌糸伸長が促進されるものと弱く阻害されるものが見られました。促進効果が高かったものはブクリョウ、マイタケ、ヤマブシタケ、チョレイマイタケでした。ブクリョウは酢酸添加で対照培地の188%の菌糸伸長を示しました。一方、腐生菌の落葉分解菌のハタケシメジ、キヌガサタケの菌糸伸長は強く阻害されました。 菌根菌は酢酸添加により、菌糸伸長が著しく阻害され、多くが全く伸長しませんでした。例外的にホンシメジおよびシャカシメジは酢酸添加でも対照培地の95%の伸長を示しました。
 寄生菌は酢酸添加により菌糸伸長が阻害される傾向にありました。
 キノコの種類によって酢酸に対する菌糸伸長に違いが認められるため、キノコの種類によっては、オガ屑以外の栽培資材を検討する必要があると考えられました。

   
図2 酢酸が菌糸伸長に及ぼす影響
図2 酢酸が菌糸伸長に及ぼす影響