(岐阜県森林研究所) 上辻 久敏
森林のたより 2022年3月号掲載
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、外出の自粛に伴う外食機会の減少から、販売量が減少して収益の低下したキノコ生産者が県内で見られました。岐阜県のキノコ生産額の75%を占めるシイタケは、栽培開始から収穫まで半年以上を要します。
培養開始時に新型コロナウイルスの感染拡大を予想することは難しいため、半年後に菌床から発生したシイタケの多くは廃棄するしかありませんでした。シイタケの品質保持期間を延長する技術は、こうした廃棄商品を減少させ、収益の改善につながることが期待できます。
当所ではラップフィルムで包装した商品をさらに袋で密封して、通気を抑制(密封処理)することで、変色を抑制できる技術を開発し、県内に技術移転を進めております。これにより、シイタケの日持ちが3日間延びた生産会社や、 シイタケ出荷用のラップフィルムを通気性の低い材質にすべて切り替えた生産会社が出てきました。しかし、この密封処理によって、変色が抑制されても異臭が発生するという新たな課題が見つかりました。
シイタケは、通常、酸素を消費し二酸化炭素を放出する好気呼吸を行っています。このため、密封処理で好気呼吸を継続すると、密封内部の酸素が徐々に減り、二酸化炭素濃度が増加します。
酸素濃度が低下すると、シイタケの呼吸は酸素を使用しない嫌気呼吸に切り替わります。この嫌気呼吸では通常発生しない物質が生産されるようになり、その中に異臭の原因物質が含まれていると考えられます。
そこで次の2つのシイタケ品質保持の研究に取り組んでいます。
@異臭の発生抑制
シイタケの呼吸速度をもとに好気から嫌気呼吸に切り替わる酸素濃度の値(絶対酸素濃度)が岐阜大学との共同研究で明らかになりました。
今後は、この条件を満たすフィルムパックで変色が抑制できるか検討していく予定です(図1)。
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図1 性質の異なるフィルムによる密封保存の影響 |
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図2 ガスクロマトグラフ質量分析装置(におい嗅ぎ装置付き)を用いた分析 |
異臭の原因物質を特定し、その物質の発生を抑制するシイタケ保存に適した条件を明らかにすることで、変色を抑制し、異臭も蓄積させないシイタケ保存に最適と考えられる技術を開発し、キノコ生産者の収益向上に貢献していきたいと考えております。