ヒノキ大径材の利用に向けて

(岐阜県森林研究所) 土肥 基生



はじめに

人工林の長伐期化に伴いヒノキの大径化も進んできました。現状ではヒノキ材は「柱」や「土台」用として直径18~24cm程度の丸太から心持ちの1丁取りで製材されるケースが多いのですが、今後は「梁桁」用の平角製材が増加することが考えられます。 さらに、心去り木取りで製材した正角材を縦方向に接着した「接着重ね材」(図1)とすることで、大径材の強度特性(辺材側で高い強度が期待できる)を活かした構造部材を作ることができます。 大断面の平角材はレッドウッド集成材やベイマツの使用割合が高いことから、こうした外材の代替としての利用も期待できます。このため、森林研究所では今年度からヒノキ接着重ね材の開発をテーマとした研究に取り組んでいます。



図1 接着重ね材
図1 接着重ね材

利用に向けた課題

接着重ね材としての利用を考えた場合、いくつかの課題が挙げられます。
  1つ目は強度です。集成材やベイマツの代替となるには高い強度(ヤング係数※)が求められます。木材の強度は1本ごとにバラつきがありますが、 統計的にどの程度の強度が期待できるかを明らかにするため数多くの試験体を製作し強度データを取得する必要があります。
  2つ目は接着条件です。接着剤は県内企業の設備でも扱いやすい水性高分子イソシアネート系タイプの使用を想定していますが、 ヒノキでは精油成分が接着性に影響を与えるという報告もあり、塗布量やプレス時間など適切な接着条件を探る必要があります。
  3つ目は接着前の製材エレメント(正角材)の加工技術です。製材エレメントは心去り材の使用を想定しているため一定の「反り」が発生します。 歩留まりを向上させるため「反り」低減の対策や、乾燥後の仕上がり含水率が接着性に与える影響等を調べる必要があります。
※ヤング係数:強度を表す指標の1つ。数値が高いほどたわみにくいことを示す。

一連の試験は開始して間もないためデータは少ないのですが、ここでは1つ目の課題に関連したヒノキ材のヤング係数について述べます。図3は、特に強度指定をせずに調達したヒノキ丸太(6m及び4m)と、これらから製材した正角材(乾燥前)のヤング係数を示しています。 両者は相関の関係にあるのですが、それぞれ分布に幅があることが判ります。製材のヤング係数は乾燥処理を行うことで全体的に上昇すると思われますが、バラつき自体は残ります。 ごく一部の数値の高い材を使えば高強度の重ね材を作ることは可能でしょうが、実用化のためには平均値程度の材を有効に利用することが求められます。

 

図2 丸太ヤング係数の測定 図3 丸太と製材のヤング係数の分布
図2 丸太ヤング係数の測定 図3 丸太と製材のヤング係数の分布

おわりに

今回の研究課題は木材加工業界の協力により試験を進めていますが、ここ数カ月の新型コロナウイルス感染拡大により業界にも影響が出始めています。 森林研究所としてもスピード感をもって研究を推進したいと考えています。