平成30年7月豪雨により岐阜県内で発生した山地斜面崩壊の特徴

(岐阜県森林研究所) 臼田 寿生



はじめに

平成30年7月豪雨は西日本を中心とした各地に甚大な被害をもたらし、岐阜県においても78箇所の山地被害が発生しました(平成30年7月豪雨災害検証報告書:岐阜県)。このため、当所では、今後の森林管理に役立てることを目的として、県内で発生した山地被害の特徴を調査しました。

今回は山地被害のうち、斜面崩壊の主な特徴について紹介します。

調査方法

調査対象は、県の治山担当が把握した山地斜面崩壊発生箇所のうち、現地で位置が特定できなかったものなどを除いた19箇所としました。調査は、災害発生位置を現地等で確認するとともに、国土交通省および県治山課の航空レーザ測量成果から災害発生前の地形を確認しました。さらに、県作成の森林簿および現地の状況から、災害発生前の林況(樹種、林齢)を確認しました。

斜面崩壊発生前の地形

19箇所の斜面崩壊発生地における崩壊発生前の傾斜角度は図1のとおりです。斜面崩壊はいずれも30度を超える急斜面で発生していました。また、地形の凹凸の程度をあらわす曲率を確認したところ、わずかに凹んだ谷頭の集水地形が多くを占めていることがわかりました(図2)。これらの結果は、過去の災害報告と同様の傾向でした。

わずかに凹んだ谷頭の集水地形は「0(ゼロ)次谷」と呼ばれ、豪雨時に崩壊が発生しやすい地形であることが知られており、平成29年の九州北部豪雨においても「0次谷」を発生源とした山地被害が数多く発生しました。

 


図1 斜面崩壊発生箇所における崩壊前の傾斜角度 図2 幼齢ヒノキ林のわずかに凹んだ地形で発生した斜面崩壊
図1 斜面崩壊発生箇所における 図2 幼齢ヒノキ林のわずかに凹んだ地形で
崩壊前の傾斜角度 発生した斜面崩壊

斜面崩壊発生前の林況

斜面崩壊発生前の林況を確認した結果、無立木地および20年生以下の幼齢林が全体の約4割を占めていました。平成29年度末時点の県内民有林における無立木地および20年生以下の林分の面積割合は1割に満たない(岐阜県森林・林業統計書より)にもかかわらず、崩壊箇所ではその割合が高かったことを考えると、これらの林分では崩壊が発生しやすい状況にあったと推察されます。

既往の研究によると、無立木地や幼齢林では、樹木の根系が存在しないか未発達であるため、根系が発達している斜面に比べて斜面崩壊が発生しやすいという報告が数多く見られます。今回の災害における崩壊と林分の関係についても、過去の報告と同様の傾向にあることがわかりました。

なお、崩壊前に生育していた樹種と崩壊の関係については、スギ、ヒノキ、広葉樹のいずれの林分においても崩壊が発生しており、樹種による大きな偏りは認められませんでした。

おわりに

今回の豪雨災害により県内で発生した山地斜面崩壊の主な特徴は次のとおりです。

1.30度を超える急傾斜地かつ0次谷などのわずかに凹んだ集水地形での発生が多かった。

2.樹木の根系が存在しないか未発達である無立木地および20年生以下の幼齢林での発生が多かった。

以上の結果を踏まえて、今後の森林管理における留意点を考えてみました。

現在、県内では伐期を迎えた森林が数多く存在し、これらの森林では皆伐などによる主伐再造林が推進されています。皆伐による主伐再造林を実施するにあたっては、伐採から20年程度は根系による斜面崩壊防止機能が低下することに留意し、崩壊しやすい急傾斜地の0次谷地形では皆伐を避けるなど、国土保全と林業の両立のための対応が必要であると考えます。