一億円産業への再成長を目指して
−高原山椒の優良苗育成−

(岐阜県森林研究所) 茂木 靖和



今年も暑い夏が到来し、ウナギの恋しい時期になりました。その引き立て役として欠かせない食材に山椒があります。高山市(旧上宝村)の高原川流域で生産される高原山椒は、実が小粒で緑色が濃く、香りが非常に強く長持ちする特徴があります。特にこの時期(7月後半から8月)に収穫されるものは品質が高く、調味料や香辛料の最高級原料として出荷されています。しかし、栽培株(写真1)の枯死や労働力不足などにより生産量が減少し、供給量が需要に満たない状況にあります。

そこで、当所では、中山間農業研究所と共同で、この地域の山椒の優良な特徴を持つ苗を、省力的に育成する技術の開発に取り組んでいます。

写真1 山椒栽培株
写真1 山椒栽培株



優良苗に求められる性質

1.高品質な実を生産できる苗

高原山椒が最高級品として評価される理由は、色と香りが優れるところにあります。特に色は、厳しく評価されます(写真2)。収穫が遅れると赤く変色するため、生産者は、長期間に渡り実の色を緑色に保つ性質の苗を求めています。

一等品(高単価)緑の実 二等品(低単価)赤色の実を含む
一等品(高単価)
緑の実

二等品(低単価)
赤色の実を含む

写真2 山椒の品質管理



2.生産性の高い苗

 一株当たりの収量の多さに加えて、収穫効率の高さが求められます。単価の高い実を多く生産するには、赤く変色する前に収穫する必要があり、そのためには短時間で収穫できた方が有利です。具体的には、一房当たりの実数が多い、或いは実の付き方が点在せずに集中するといった性質が求められます。

図1 山椒の密閉挿し
図1 山椒の密閉挿し

苗の育成方法

山椒の生産に熱心な生産者は、前項目の@、Aの性質をもつ栽培株を所有しています。その株の枝を材料に用いてさし木を行うことで、元の栽培株(母樹)の性質を受け継いだ苗を育成できます。試験では、さし木後の灌水手間を省力できる密閉挿し(図1)の検討を進めています。

試験の進捗と今後

これまでに実施した6月または7月に採取した当年枝(その年に新たに伸長した枝)を材料に用いた試験では、供試した枝の母樹によって100%近く発根するものから、全く発根しないものまで存在することを確認しました。 今後は、これまで成績が悪かった母樹のさし木条件の改善と、育成したさし木苗(写真3)を早期に収穫可能な栽培株へ誘導するための育苗条件を明らかにしていきます。これを実現することで、かつて販売額一億円といわれたこの地域の山椒栽培の再成長に貢献したいと考えています。

写真3 現地移植後の山椒さし木苗
写真3 現地移植後の山椒さし木苗