(岐阜県森林研究所) 上辻久敏
岐阜県のシイタケの生産額は年間約20億円(平成27年)あり、地域経済に貢献する重要な品目です。このシイタケに関して品質保持は重要な課題です。生シイタケの品質が低下し始めると、傘の裏側のヒダや柄の部分が茶色く変色します。この変色は、消費者や市場関係者の視覚的な評価に大きく影響し、市場関係者らは価格にも影響すると考えています。出荷後にシイタケが変色する現象は、全国のシイタケ産地で発生しています。
当研究所では、シイタケの品質保持として、全国で発生している変色の対策技術を開発し、シイタケの商品力を高めることを目指しています。これまでの試験から、シイタケの変色のしやすさが品種ごとに異なり、シイタケ自身が持つ酸化酵素の働きの強さが、変色しやすさに影響している可能性が高いことが分かってきました。この知見をもとに酸化酵素の働きに影響する因子と変色の関係を調べています。
シイタケの変色を根本的になくすには、変色に関係する酸化酵素のない品種が考えられますが、現状では開発されていません。一方、酸化酵素が、働くためには、酸素が必要です。シイタケの変色に関係する酵素への酸素の供給を妨げれば、酵素が働きにくい環境になり、シイタケが変色しにくくなると考えられます。
この考えをもとに、主要な販売形態であるトレイにシイタケを並べラップ包装したパック商品をさらに密封して酸素の供給を低下させる試験で、変色が抑制できる結果を得ることができました(「シイタケの変色を理解して、鮮度保持に役立てる」森林のたよりNo.749、16ページで紹介)。
ラップ包装されたパック商品は、段ボール箱に梱包され出荷されています。今回紹介する試験では、個々の商品の包装はそのままで、パック商品が梱包された段ボール箱ごと1つの袋で密封する試験を行いました。16日間の保存後に、袋での密封の有無によるシイタケの変色状況を比較してみました。
その結果、袋で密封していない段ボール箱のパック商品は、すべて変色していましたが、密封した段ボール箱では、すべてのシイタケパックが白い状態を維持していました(図)。通常のパック商品と段ボール箱を使用し、段ボール箱を密封するだけで比較的簡単に梱包された商品30パックの変色を一度に抑制することができました。
一般にパック内の湿度の高さも品質低下の要因の一つとなり、水滴が付かない方がよいと考えられています。今回の調査では、16日目のパック内に水滴の付着は確認されませんでしたが、密封しない条件よりは、水滴が付着しやすくなっていると考えられます。また、キノコから発生する揮発成分の濃度も高まることが予想されます。現在、変色だけでなくその他の品質と変色抑制の関係を調べ、県内シイタケの商品性のさらなる向上に役立つ技術の開発に取り組んでいます。