アベマキの人工乾燥

(岐阜県森林研究所) 土肥 基生



はじめに

アベマキは岐阜県内の標高の低い森林に多く見られるブナ科コナラ属の広葉樹です。美濃加茂市の「日本昭和村」の周辺ではこのアベマキが比較的多く見られますが、近年はあまり利用されていませんでした。昨年度、地元の美濃加茂市が中心となり、この材を地元小学校の学童机用天板として活用する取り組みがはじまりました(詳しくは森林のたより平成27年9月号、P10「使われてこなかった「アベマキ」を小学校の机の天板に」をご覧ください)。用材として利用するためには、所定の含水率まで落とす乾燥工程が欠かせません。当研究所でも市役所や森林組合と連携して人工乾燥スケジュールの確立に関する技術開発を行いました。

  
写真1 アベマキ(美濃加茂市内)
写真1 アベマキ(美濃加茂市内)

乾燥の難しいアベマキ材

アベマキは、寸法や断面が狂いやすい性質を持つことから用材としての利用実績が乏しく、人工乾燥スケジュールに関する報告事例もありません。このため、まず乾燥の難易度を調べる「100℃試験」を行います。これは、小試験体を100℃で急速に乾燥させた時の断面変形や木口割れ、内部割れの発生状況をランク分けし、損傷の程度から人工乾燥の条件を推測するものです。スギやヒノキの100℃試験ではほとんど発生しない内部割れや断面変形が、アベマキの特に心材で著しく発生(写真2)ため、乾燥条件としては相当緩やかな温度である45℃から開始する乾燥スケジュールで試験を始めました。

  
写真2 100℃試験による内部割れと断面変形(アベマキ心材)
写真2 100℃試験による内部割れと断面変形(アベマキ心材)

乾燥時間の短縮に向けて

今回の試験は、長さ2m、厚さ31mmの板材を用い、製材後に天然乾燥させた材料で行いました。製材直後の含水率は約60%で、天然乾燥でそれぞれ約25%、約15%となった時点から2回の試験を実施しました。目標含水率は10%以下としています。初回の試験では、乾燥初期45℃、終期70℃とし、約20日間を要しました。2回目は、乾燥初期50℃、終期70℃に設定し、初期含水率の違いはありますが、要した日数は約9日でした。

比較的乾燥が容易な針葉樹、例えばスギの板材では4.5〜7日が標準的な乾燥日数です。一般的に、乾燥時の温度や湿度条件を厳しくすれば乾燥日数は短縮されますが、特に広葉樹では、無理な乾燥を行うと断面の変形や表面割れ(写真3)が発生しやすいという性質があります。このため、材料に損傷を与えない範囲で、できるだけ乾燥日数が短くなる条件(乾燥スケジュール)を、試験の繰り返しにより探っていく必要があります。

  
写真3 乾燥途中で発生した表面割れ 写真4 人工乾燥試験
写真3 乾燥途中で発生した表面割れ 写真4 人工乾燥試験

今後の取り組み

実際の生産現場での乾燥は、製材直後の生材の状態から開始することも多いと思います。今後はこうした条件での実務上有用となるデータを増やしていくとともに、木材乾燥機の減圧機能を用いた高速乾燥にも取り組んでいきたいと考えています。