スギの植栽密度を考える
下呂実験林の調査データから

(岐阜県森林研究所) 茂木 靖和



先月に引き続き、植栽から約半世紀の間、調査を継続している下呂実験林のデータから、今後のスギの造林を考えてみます。  今回のテーマは植栽密度(面積当たりの苗の植付け本数)です。スギでは、これまで3000本/ha植栽が多く行われてきました。植栽密度は、このシリーズのキーワードである造林・育林作業の省力化・低コスト化に直結するだけでなく、先月紹介した品種と同様、植栽時に決める必要があり、その決定が将来に大きな影響を及ぼす事項です。下呂実験林においても、このことを痛感する現象が起きています。


【下呂実験林で発生した冠雪害】

平成14年1月、岐阜県美濃北部から飛騨南部にかけての普段比較的雪の少ない地域を中心に、冠雪害が発生しました。この時、下呂実験林の植栽密度比較試験地(挿し木、当時36年生)において、被害が3000本/ha植栽区に発生し(写真、被害率約40%)、20000本/ha植栽区では発生しませんでした。

3000本/ha植栽区は、ほぼ無間伐のまま管理されてきたので、立木密度が高く、冠雪害を受けやすいとされる高い形状比の林木が多い状態でした(表1)。調査の結果、主に胸高直径18cm以下の小径木が被害を受けた(図)ことがわかりました。

写真 3000本区 表1 試験区の林分状況
写真 3000本区の冠雪害 表1 試験区の林分状況
  
図 被害木と健全木の胸高直径階分布
図 被害木と健全木の胸高直径階分布


【3000本/ha植栽区で冠雪害を防げたか?】

冠雪害が発生しなかった2000本/ha植栽区は、立木密度が低いまま管理されていたので、胸高直径18cm以下の小径木が少ない林分でした(図)。このため、3000本/ha植栽区においても、林冠が閉鎖した時期に間伐によって立木密度を下げ、直径成長を促すことで、冠雪害を防ぐことができたと推測されます。



【植栽密度は低い方が有利?】

植栽密度を低くした方が、苗木代や植付け労賃などの造林経費が軽減され、間伐の手間が省け、さらに冠雪害回避に有効なため、一見有利にみえます(表2)。  しかし、やはり得手不得手があって、植栽密度が低い場合、曲がりや節の少ない優良材を生産するのが苦手です(表2)。  植栽密度を決めるにあたっては、どのような木材生産(森林づくり)を目指すのか、そのために必要な管理をちゃんと行えるのか、といったことを十分考慮する必要があると思います。さらに植栽後は、事前に検討した植栽密度にあわせた管理を実践していくことが大切です。

  
表2 植栽密度の高低に伴う利点と欠点
表2 植栽密度の高低に伴う利点と欠点