酵素でキノコの発生を増やす

(岐阜県森林研究所) 上辻 久敏



一般的に食用キノコの栽培には、オガコに栄養材としてフスマなどの穀類を加えた培地が用いられています。近年、原料となる穀物価格の高騰や、栽培施設の温度調節にかかる燃料費の増加により、キノコ栽培にかかる費用は増加する一方で、キノコの販売価格は低迷しており、生産者にとっては苦しい状況が続いています。このような状況を少しでも改善するため、新たな設備投資などを必要とせずにキノコの発生量を増大させ、収益性の向上につながる技術開発が求められています。そこで、当研究所では現状の生産工程に大きな変更を伴わずに、キノコの増収につながる可能性がある酵素を用いた技術の開発に取り組んでいます。


【酵素で培地を変化させる?】

試験ではエリンギとブナシメジで酵素処理の有用性を検討しています。処理に使用したのは、アミラーゼとよばれる主に培地の栄養材に含まれる糖類を分解し、キノコが利用しやすいと考えられる状態に培地を変える酵素です。試験には産業用として利用されている2種のアミラーゼ(酵素A、酵素B)を使用しました(酵素処理でエリンギの発生量が増えることは、森林のたより(No.688)で紹介)。



【ブナシメジも増加】

今回、ブナシメジについても酵素処理の効果が認められました。ボトルあたりで発生したキノコの重量は、無処理よりも酵素A処理で17%、酵素B処理で18%増加しました(写真)。培養90日目にキノコの発生を促す菌掻き処理を行い、キノコの発生までの日数は、無処理と酵素処理の培地で差は認められず、栽培期間への悪影響もありませんでした。また、処理に使用した酵素がよく働いて培地中の糖類の分解が、より進んだほうがキノコの増収効果があると当初予想しておりました。しかし、そうではなくキノコの発生を増加させる適切な分解度合いが存在すると考えられる結果も得られています。



【おわりに】

キノコの発生には、まだわからないことがたくさんありますが、酵素処理で、培地をキノコの発生しやすい環境に変えられたと考えています。今回の方法は、培地製造で一般的に行われている培地資材に水を加えてかく拌する工程に酵素を添加するだけの比較的簡易な処理です。酵素処理とキノコの発生量の関係を理解し、キノコの生産性を上げるために貢献できる処理方法になるよう研究を進めていきます。



写真 発生したブナシメジの様子
発生したブナシメジの様子 width=