食用キノコの発生量を増やすために

(岐阜県森林研究所) 上辻 久敏



食用キノコの菌床栽培には、培地に針葉樹や広葉樹のオガコを使用しますが、オガコだけでは、栄養素が十分ではないためキノコの生育がよくありません。
 このため、菌床栽培では短期間に効率よくキノコを発生させるために、栄養剤と呼ばれる米ヌカやフスマを培地に添加しキノコの生育を促進させます。


【キノコが栄養を吸収するには】

では、キノコは、培地であるオガコなどの固形物をどのように栄養として利用しているのでしょうか。
 キノコは、動物のように固形物をかじって粉砕し、体内に取り込むことができません。そのかわりに酵素と呼ばれる特別なタンパク質を利用して、まわりの固形物を部分的に分解し、可溶化することで栄養として吸収しています。
 そこで、栽培培地に酵素を人工的に作用させ部分的に培地成分を低分子化して、キノコの利用性を向上させることで、キノコの発生量を増加する効果が得られるか試験を行っています。現在、試験には、食用キノコとしてよく知られているエリンギで取り組んでいます。


【エリンギの発生への影響は】

エリンギ栽培に一般的に用いられているスギオガコに栄養剤として米ヌカとフスマを添加した培地で、酵素処理の影響について試験を行いました。
 酵素処理には、栄養剤に多く含まれるデンプンなどに作用するアミラーゼと呼ばれる酵素を2種類使用しました。
 酵素は、オガコと栄養剤の混合物に水を加える工程で添加後、共に攪拌し加熱殺菌した培地をもちいて栽培試験を行いました。その結果、残念ながらエリンギ発生量の増加は認められませんでした。
 しかし、培地組成を変更しスギオガコに栄養剤としてオカラ、米ヌカとフスマを添加した培地を、同じく2種類の酵素でそれぞれ処理したところ、無処理の培地よりも培養35日目に発生処理をした試験区では、1種類の酵素(A)で発生量が増加し(写真)、培養40日目の発生処理の試験区では、2種類の酵素で共に発生量の増加が認められました。

なぜ栄養剤組成の変更で酵素処理の効果が認められたのかについて、現状では明確な理由はわかりませんが、他者の研究でも培地を酵素処理することでナメコの発生量が増加したことが発表されています。

エリンギ発生の様子
写真 エリンギ発生の様子(培養35日目に発生処理をした試験区)

【今後の研究について】

今回処理に使用したアミラーゼは、デンプンなどのα型の多糖のつなぎ目を切って低分子化します。添加した酵素は、栄養剤に作用していることが予想されますが、キノコの発生量と酵素分解物の関係についてさらなる研究が必要です。
 菌床栽培では、一般的に様々な栄養剤が添加されています。今回の試験方法では、培地作成の工程に酵素を添加する比較的簡易な処理ですので、今後も安定した増収効果の得られる処理方法になるよう研究を進めていきます。