さし木技術の向上を目指して
組織培養の発根条件からさし木を考える

(岐阜県森林研究所) 茂木 靖和



さし木は、植物の茎などを切り離して土などにさすだけで、切り離した株と同じ性質をもつ苗(クローン苗)を育成できる技術です。この技術は、操作が簡単なため、クローン苗が必要な果樹や園芸植物等の生産者だけでなく、一般の植物好きな方も気軽に実施しています。

さし木が成功するか否かを左右する要因のひとつに、植物の種類や品種によって発根に難易があることがあげられます。ナンテンやヤナギなどの発根が容易な植物では、さし木を意識せずに切った枝を、目印代わりに土にさしておくだけでも発根して根付くことがあります。これに対し、さし木に有効といわれる薬剤処理や管理を行っても、あまり発根しない植物(難発根性植物)があります。コナラがこれに該当します。コナラのクローン増殖は、シイタケ生産に適する通直で、樹皮が薄く、成長が早い系統を増やすのに有効です。


【コナラのさし木】

当所でも、6月下旬に、約20年生のコナラのその年に伸長した枝(緑枝)を15〜20cmに調整(さし穂:写真1)し、さし木に有効といわれるさし穂への発根促進剤処理と、ミスト灌水による管理を併用したさし木を行いました。しかし、1ヶ月後には、ほとんどの個体が枯死し、1個体も発根しませんでした(写真2)。


コナラのさし穂(さし付け前) コナラのさし木(1ヶ月後)
写真1 コナラのさし穂(さし付け前) 写真2 コナラのさし木(1ヶ月後)


【コナラの組織培養】

さし木に代わるクローン増殖法として、組織培養に取り組むこととしました。この技術では、無菌的に取り出した芽や胚或いはこれらを含む組織片等を、栄養物を含む培養液や培地で培養し、芽などから伸長したシュート(茎と葉の総称:写真3)を発根させて、外の環境に適応させることにより、苗が育成できます。

組織培養においても、コナラは、さし木のさし穂に相当するシュートの発根に課題がありました。発根処理条件を変えて試験を繰り返しても、安定して発根しませんでした。ある時、いつもと異なる条件で育成したシュートを発根の試験に用いたところ、全個体が発根せずに枯死しました。発根処理より前のシュート育成条件が、発根試験の結果に影響すると考えられました。

その後、追試を繰り返した結果、スギやヒノキの着花促進に利用されるジベレリンという植物ホルモンを含まない培地で育成したシュートでは、発根処理を行っても発根前に枯死することが多いこと(写真4)、シュート育成時における培地の糖濃度と培養期間が発根と関係ありそうなことがわかってきました。

わき芽(左)とそれから伸張したシュート(右) 写真4 シュート(コナラ)の発根試験ジベレリンなし(上)とジベレリンあり(下)
写真3 わき芽(左)とそれから
伸張したシュート(右)
写真4 シュート(コナラ)の発根試験
ジベレリンなし(上)とジベレリンあり(下)


【今後の検討】

今回の組織培養の結果から、シュートの育成条件が発根に影響することが示唆されました。このことから、コナラなどの難発根性植物のさし木においても、さし穂の状態を制御することにより、発根が改善される可能性があると考えています。具体的には、さし木の実施前に、さし穂を採取する個体或いはさし穂への植物ホルモン(ジベレリンなど)や肥料の散布などが考えられます。