土の中の炭素を調べる
京都議定書と森林

(岐阜県森林研究所) 水谷 嘉宏



【京都議定書における森林・林業の使命】

地球温暖化防止の取組を定めた京都議定書に示された目標年次を再来年に迎えた今、日本の森林が担う二酸化炭素の削減量について、改めて紐解いてみます。
 日本の二酸化炭素削減目標は、1990年比でマイナス6%です。このうち3.8%(炭素1300万t)までは森林が吸収したと見なすことが許されています。これに該当する森林は3タイプあります。一つは「過去50年間森林でなかった土地への植林(新植)と1990年時点で森林でなかった土地への植林(再植)」、もう一つは「法令等に基づく伐採・転用規制等の保護・保全措置がとられている森林」、三つ目は「適切な施業が行われた森林」です。日本では新たに植林する場所はほとんどありませんので、今ある森林の整備が主な対応策となります。もし6%の目標が達成できない場合は、次期削減計画で目標の上積みが課せられます(図1)。

    
森林吸収量に計上できる炭素1300万tの内訳
図1 森林吸収量に計上できる炭素1300万tの内訳


【土壌に蓄えられた炭素を調べる意義】

また京都議定書は、森林が吸収する二酸化炭素を削減量に計上する国に対し、森林のどこにどれだけ炭素が蓄えられているか報告することを求めています。もし報告に問題があった場合は、森林管理などによる削減を認めた京都メカニズムへの参加資格を失います。つまり、森林整備による削減手法が使えなくなるのです。報告に対応するため、平成18年度から全国規模で土壌や落葉・落枝などに含まれる炭素量の調査が進められており、県下では森林研究所などが対応しています。



【土壌の中の炭素】

炭素は土壌の中では腐植として蓄えられています。土壌中の炭素量を求めるためには、深さごとの炭素濃度と重さ、石礫を除いた土の割合を調べる必要があります。炭素は落葉などから供給されますので、炭素濃度は通常は土壌の上部ほど高くなります。森林研究所が調査した17箇所の表層土壌の炭素濃度は2.4%から47.7%までの幅がありました。県実施分を含む全国の調査結果は森林総合研究所が分析・集計を行いますので、ここでは炭素量から見た痩せた土と肥えた土について、「森林土壌はみかけによらない」ことを象徴するふたつの事例で紹介します。

アカマツを主体とした林の土壌 ブナなどを主体とした林の土壌
写真1 アカマツを主体とした林の土壌 写真2 ブナなどを主体とした林の土壌

写真1は松喰い虫の被害が出ている痩せた印象のあるアカマツを主体とした林の土壌、写真2は豊かな印象のあるブナなどを主体とした林の土壌です。ふたつの表層土壌の炭素濃度はいずれも18%前後ですが、地表から数十cm下では写真1が勝っています(表1)。写真1はレキだらけの土壌、写真2は緻密なかべ状の土壌という構造の違いが腐植の浸透のしやすさに影響し、濃度の差の一因になっていると考えられます。

         
表1 調査地の概況と土壌の炭素濃度
調査値の概況と土壌の炭素濃度
※写真1は深さ約30cm、写真2は深さ約20cmで採取したサンプルの値


【森林土壌に蓄えられている炭素の総量】

森林総合研究所の計算によると、日本の森林土壌には深さ30pまでに約20億t(1haあたり約80t)の炭素が蓄えられているとされています。これは京都議定書が定める森林吸収量1300万tの約150倍に相当する量です。また、この20億tという値は樹木に含まれる全炭素量に匹敵しており、炭素の貯留に関しては、地上と同じように地下にも森が広がっていると言うことができます。


【ポスト京都議定書に向けて】

炭素20億tに対する1300万tは、人に例えるなら体重60kgに対する400gです。森林吸収分についての目標は達成されると思いますが、日本全体で6%の削減は危機的な状況です。昨年開催された2012年以降の地球温暖化対策を論議したコペンハーゲン会議(COP15)は合意には至りませんでしたので、森林に対する関心や施策への影響が懸念されます。一方、研究に関してはデータの蓄積による推計値の信頼性の向上とともに、施業の違いや時間の経過に伴う変化の把握という課題も見えてきました。
 調査の実施にご理解いただいた森林所有者の方に感謝申し上げるともに、今後の調査へのご協力をお願いします。