(岐阜県森林研究所) 茂木 靖和
森林のたより 2009年8月号掲載
キノコというとシイタケ、マツタケといった食用キノコを思い浮かべる方が多いと思います。また、レイシ(マンネンタケ)など薬用キノコを思い出す方もいると思います。
これからお話しするコツブタケは、食用、薬用のどちらにも利用されていません。しかし、私達と無関係かというと、そうともいいきれません。現在、私たちが目にしているアカマツ、コナラなどのなかには、このキノコと共に生育しているものがあるからです。
今回は、コツブタケの性質を樹木の組織培養に利用する試みを紹介します。
コツブタケは、日本では全土に分布し、春から秋にマツ林や雑木林などでキノコが発生するとされています(写真1)。里山では普通にみられるキノコといっていいと思います。
このキノコは、食用のマツタケやホンシメジと同様、樹木の根に菌根を形成して生活する菌根性キノコの一種です。
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写真1 アカマツの根元に発生したコツブタケ |
右のキノコは成熟して粉状にくずれている。(平成20年11月25日、美濃市で撮影) |
菌根とは、菌類との複合体となった根のことをいいます。樹木と菌根性キノコとの間では、一般に樹木からは光合成でつくられた糖が、菌根性キノコからはリンや窒素などの養分が相手に供給され、お互いに利益のある関係といわれています。菌根の形成により、樹木は乾燥や病原菌などに対する抵抗性が増し、成長が促進されるといった事例があります。
菌根を人工的に樹木へ形成させるには、菌根性キノコの菌糸を苗の根又は根元へ接種する方法が行われます。このため、菌根形成を目的とした場合、人工接種に用いる菌根性キノコには、菌糸成長が早いこと、菌糸形成が容易であること、多くの樹種と菌根を形成することなどの条件が求められます。
コツブタケには、マツタケなど他の菌根性キノコより菌糸の成長が早く、菌根形成が容易であるといった特徴があります。また、菌根を形成する樹種が、マツタケではアカマツ、ツガといったマツ科などに限定されますが、コツブタケではマツ科、ブナ科、カバノキ科、ヤナギ科など多くの科にわたります。
組織培養では、培養苗を試験管の外へ出す作業(順化)で、多くの苗が枯れるという問題があります。その原因の一つに、急激な乾燥に伴う水分ストレスがあげられます。菌根形成には、乾燥に対する抵抗性が増すといった事例があります。そこで、菌根形成を順化に利用できないか検討するため、クヌギ培養苗にコツブタケの菌糸を接種する試験を行いました 。
その結果、発根個体では、培養苗の葉色が濃く菌糸増殖が大きくなり、発根しなかった個体では培養苗が枯死し、菌糸があまり増殖しませんでした(写真2)。発根個体では、培養苗の生育および菌糸増殖とも良かったことから、菌根が形成された可能性があると考えています。
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写真2 コツブタケを接種したクヌギ培養苗 |
今後は、顕微鏡でクヌギの根に菌根が実際に形成されているか確認するとともに、菌根形成が順化に有効であるか、検証していく予定です。