スギ林床を利用したムラサキシメジ栽培の試み

(岐阜県森林研究所) 水谷 和人



【キノコが少ないスギ林】

県内にたくさんあるスギ林は、キノコ狩りに適しません。スギ林には、キノコがあまり発生しないからです。キノコが少ない理由は、スギが分解しにくいことやスギと共生関係にあるキノコがほとんどないことと考えられます。一方、スギ林内は直射日光が遮られ、湿度が高く温度もキノコの生育環境に適している場合が多く、キノコ栽培に適した空間が多く存在しています。そこで、森林空間をうまく活用して自然味に溢れたキノコを収穫することを目的に、スギ林の林床を利用したムラサキシメジ栽培について検討しました。

【ムラサキシメジとは】

ムラサキシメジは落ち葉を分解する腐生菌で、晩秋、主に雑木林内にきれいな菌輪をえがいて発生します。傘の直径は6〜10cmで、紫色をした大型で肉厚なキノコです。岐阜県ではあまり食される習慣がありませんが、古くから食用にされており、東北地方などでは秋に直販所で販売されるキノコです。

【栽培の試み】

ムラサキシメジ栽培を県内のスギ林2ヶ所、いずれも沢沿いの40年生前後の林で行いました。栽培は、林床に置いた菌床の上にバーク堆肥を被せる方法で、菌床材料3種類と菌株4種類とを組み合わせて試験区を設定しました。一般に、キノコの菌床材料にはオガコが使用されますが、ムラサキシメジはオガコよりバーク堆肥が適していると報告されています。そこで、菌床材料は、バーク堆肥単独、バーク堆肥にスギおが粉を混ぜたもの、バーク堆肥に赤玉土を混ぜたものとして、これら3種類の材料に、それぞれフスマを容積比で13.5:3.5に添加して水分を調整し、フィルター付き栽培袋に600g詰めました。殺菌後、森林研が所有するムラサキシメジ4菌株を接種して21℃で約2ヶ月間培養しました。7月に培養済み菌床を袋から出してスギ林内に1試験区当たり方形状に4個ずつ置き、その上をバーク堆肥で被覆しました(写真−1)。

写真−1 菌床の設置状況(7月)
写真−1 菌床の設置状況(7月)

【キノコの発生】

ムラサキシメジは設置した年の10月下旬〜12月下旬に、埋設した菌床の周囲に菌床から20〜50cm離れて円状に発生しました(写真−2)。

写真−2 発生したムラサキシメジ(11月)
写真−2 発生したムラサキシメジ(11月)

発生量はスギ林2ヶ所で大きく異なり、菌床材料や菌株の種類など試験区による違いは明らかではありませんでした(図−1)。最も多い場合は菌床4個当たり1,660gで、実に菌床重量の約70%の発生がありました。一方で、全く発生しない場合もありました。発生したキノコは、菌株4種類とも若干土臭さがあり、採取時期が少し遅れると害虫による食害も見られました。現在は、安定した栽培化に向けて、発生量が多く、土臭さの少ない系統の選抜などの取り組みを進めています。

図−1 ムラサキシメジの発生状況
図−1 ムラサキシメジの発生状況