組織培養研究の目指す方向

(岐阜県森林研究所) 茂木 靖和



シイタケ原木の供給不足が懸念された20年程前、当所では、岐阜県内で最もこれに利用されていたコナラを対象に効率的な苗生産技術の開発を目指して、「組織培養によるコナラの増殖技術の開発」という課題が始まりました。当時、農業の分野では、既に組織培養によるイチゴのウイルスフリー(無菌)苗等が実用化されており、この技術の樹木(コナラ)への利用が期待されました。しかし、この時には、シュート(葉と茎)の増殖率(伸長量、発生本数)、シュートの発根率とも良くなく、技術の確立には至りませんでした。

月日が流れ、最近問題となっているナラ枯れがきっかけで、コナラの組織培養に再び取り組むこととなりました。今回は、この経緯を説明するとともに、組織培養研究の目指す方向について考えてみます。


【ナラ枯れとクローン増殖】

ナラ枯れは、コナラやミズナラ等が集団で枯れる現象です。岐阜県では、現在、県下各地でナラ枯れが発生し、その被害が毎年拡大しています。被害林分を観察すると、ナラ枯れの原因とされるカシノナガキクイムシが穿孔したにもかかわらず、枯れない個体が存在することに気づきます。このような個体は、ナラ枯れに対して抵抗性を持つ可能性があります。この性質を受け継いだ苗は、栄養繁殖(クローン増殖)で育成する必要があります。

さし木やつぎ木は、クローン増殖の代表的な方法ですが、コナラはこれらの方法が困難な樹種といわれています。当所でも、さし木を試みたことがありますが、全滅した経験があります。そこで、コナラのクローン増殖の一手段として、組織培養を再検討することになりました。


【組織培養とは】

植物の組織培養は、無菌的に取り出した植物の芽や胚或いはこれらを含む組織片等を、栄養物を含む培養液や培地で無菌的に培養して、植物体を再生させる技術です。この技術は、条件が整えば一つの芽から複数のシュートを発生させたり、伸長したシュートを一芽以上含むように切り分けることにより、短期間に大量の苗を育成することが可能です。


【組織培養研究の目指す方向】

組織培養の場合、施設等に経費がかかるため、苗の価格が高いという問題があります。そこで、組織培養で検討した結果をさし木に応用できないか、ということを考えています。

発根率の低い種のさし木を行う場合、さし穂の基部に発根促進剤を処理します。液体の発根促進剤では、濃度、処理時間等を変えることにより、処理の強さを無限に調節できます。しかし、一個体から採取できるさし穂の量には限界があります。このため、さし木で発根促進剤の処理条件を検討する場合、採取できるさし穂の量により試験が制限されます。

一方、組織培養では、シュートの増殖条件が明らかになれば、増殖を繰り返すことにより、無限にシュートを増やすことができます。また、培地にさし付ける前のシュートの基部に発根促進剤を処理することにより、さし木と同様の試験ができます。

組織培養では、今後、クローン増殖のみを目的とするだけでなく、ここで得られた結果や技術を利用して、別の目的を達成させるといった+αの部分を目指す研究が必要と思います。


【おわりに】

20年ほど前に、コナラの組織培養を行った時には、シュートの増殖もうまくいきませんでした。その後、いろいろな種で経験した組織培養の技術・情報を駆使した結果、現在はコナラのシュートを効率的に増殖できるようになりました(写真)。

今後は、前段で示した試験を検証すると共に、組織培養をクローン増殖だけでなく、+αとなる部分を探しながら、研究を進めていきたいと思います。

コナラのシュート増殖
コナラのシュート増殖