ナラ枯れの調査から

(岐阜県森林研究所) 高井 和之



【はじめに】

コナラやミズナラなどのブナ科樹種(特にナラ類)が集団で枯死する被害(ナラ枯れ)は、岐阜県では平成8年に旧坂内村内で初めて確認されました。その後、被害は年々東へと拡大しており、今年度の調査では美濃加茂市や可児市が、枯死被害の最前線となっています。また一方で白川村内での枯死被害も目立ち、富山県方面から被害が拡大したと考えられています。

今回は現地調査で感じたことなどを中心に、研究内容を紹介したいと思います。


【カシノナガキクイムシとラファエレア菌】

ナラ枯れの原因はカシノナガキクイムシ及びそのムシに共生しているラファエレア菌です。

現地調査に行くと、カシノナガキクイムシが穿孔した木の、すべてが枯れてはいないことに気づきます。こうした木は樹液がしみ出している場合が多く、懸命に抵抗しているようにも見えます。樹液が出る機構については、物理的に穴が開き材内の樹液が漏れているとする研究者もいますが、カシノナガキクイムシの掘った穴(坑道)に樹液が多量にある場合、繁殖が成功しにくいなど興味深い試験結果があります。 また、被害木を伐倒すると坑道付近の材が変色しています(写真1)。これはラファエレア菌に木が反応しているためで、この部分で樹液の流れが止まっていることが確認されています。最近の研究では、材が変色する前にフェノール性物質が集積することも明らかになっています。

コナラ辺材の変色
写真1 コナラ辺材の変色

当年に枯死しなかった木は、材が変色した部分で、カシノナガキクイムシの餌となる菌類が繁殖しにくくなるため、希に翌年枯れてしまう場合もありますが、大多数は枯れにくい木になります。これらの木は防除対象から除外してもよいと考えられます。


【新たな視点での研究】

現在は被害木をくん蒸処理する方法が確立されており、木は枯れますが材の中で確実に殺虫殺菌することができます。また粘着剤を樹幹に散布することで、カシノナガキクイムシの穿孔を阻止する方法もあります。このほかにも、ラファエレア菌(写真2)と木との関係に着目した研究を始めています。

特に、先述の材変色部分を詳しく調べることにより、ラファエレア菌の成長を抑制する物質があるのか、また、シイ・カシ類などカシノナガキクイムシの穿孔を受けても枯れにくい樹種があり、ラファエレア菌に対する特殊な成分が含まれているのか、などを手がかりに、樹木のもつ抵抗性に関する研究に取り組む予定です。

ラファエレア菌(Raffaelea quercivola)培養
写真2 ラファエレア菌(Raffaelea quercivola)培養

【おわりに】

今年度の調査では、径の大きなナラ類を残して整備した森林公園や、神社周辺のシイ・カシ類、いわゆる鎮守の森へも枯損被害が拡大していることがわかりました(写真3)。

ナラ枯れでは、最初の一本あるいは数本をいかに確実に除去するかで、その地域での被害拡大が大きく左右されますので、公園等の管理者や寺社関係の方々に対しても、被害対策の周知が必要です。

美濃市内の神社境内
写真3 美濃市内の神社境内