(岐阜県森林研究所) 茂木 靖和
森林のたより 2007年9月号掲載
これまで当所では、3種類のショウマ(キンポウゲ科のサラシナショウマ、ユキノシタ科のトリアシショウマ、バラ科のヤマブキショウマ)を山菜として利用することを目的に調査・試験を進めてきました。
昨年8月号の森のたよりでは、新芽を山菜として食べられている前述の3種類のショウマを紹介しましたが、その中の一つサラシナショウマの近縁種に、アメリカンインディアンの伝統的薬草で米国でサプリメントとして広く使われてきたブラックコホシュ(アメリカショウマ)があります。昨年8月、厚生労働省がブラックコホシュの利用に関して注意喚起の発表をしました。
今回は、この発表を受けたお話しをします。
ブラックコホシュは、キンポウゲ科サラシナショウマ属の多年草で、北米に自生し、アメリカショウマなどの別名があります。
欧米では、以前からブラックコホシュの根茎が経験的に更年期障害に用いる薬用植物として、愛用されてきました。現在ブラックコホシュを含む製品は、欧州では更年期障害の症状緩和の目的などで医薬品として、日本や米国ではカプセル、液体状の食品として販売されています。
2003年以降、ブラックコホシュの利用が原因と疑われる肝障害の事例報告が海外(オーストラリア、英国、フランスなど)で出されました。
欧州医薬品庁のハーブ医薬品に関する委員会では、入手可能なデータの評価により、これらの肝障害はブラックコホシュの利用と関連している可能性があるとみなし、肝障害の症状があらわれた場合のブラックコホシュの使用の中止、医師への相談、医師から患者への使用確認、症例の報告を促す勧告を出しました。これを受け、英国医薬品庁、フランス食品衛生安全庁などで注意喚起が行われました。
日本国内では、ブラックコホシュ又はこれを含む食品を摂取したことによる健康被害事例が報告されていませんでしたが、2006年8月、厚生労働省はブラックコホシュの利用に関して注意喚起を行いました。
今回の注意喚起は、ブラックコホシュの利用を禁止したものでありません。また、ブラックコホシュの利用と肝障害との因果関係は、解明されていません。ブラックコホシュの利用について、肝障害と関連している可能性があるので、念のため注意してください、といったものです。
サラシナショウマの根茎は、元々薬用(解熱、解毒など)での利用に限られ、ブラックコホシュの根茎のように食品としての利用が認められていません。また、ブラックコホシュの近縁種であるサラシナショウマの利用に対して、今回の注意喚起は及びません。しかし、このような情報が出た以上、サラシナショウマの新芽を敢えて山菜として利用する必要があるのかといったことが所内で問題になりました。結局、ブラックコホシュの注意喚起が解除されるかサラシナショウマの安全性が明らかになるまで、サラシナショウマの新芽の山菜としての利用を見送ることにしました。
一方、トリアシショウマとヤマブキショウマ(写真)については、今後も引き続き新芽を山菜として利用することを目的に調査・試験を進めていきます。どちらのショウマも、現在地元での知名度は高くありませんが、口当たりが良いので、調理方法などを工夫することにより、新規山菜としての利用が可能な素材と考えています。
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林道のり面に自生するトリアシショウマ(右)とヤマブキショウマ(左) |
トリアシショウマの新芽 |
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ヤマブキショウマの新芽 |