地域林業を左右する住宅軸組工法のゆくえとスギ利用
(林産研究部)富田 守泰
岐阜県の林業 1997年5月号掲載
住宅展示場から見た林業
住宅展示場へ行ったことがありますか?展示場の住宅はどのように建ているか考えたことがありますか?
かつてのように柱や梁(はり)で建てていく住宅は減ってきました。その代わり、パネルや工場から部屋を持ってきて設置するだけの住宅が増えてきています。木造住宅も次第にパネル化し、柱や梁で組み上げる在来軸組工法は次第に減少してきています。
ところが一方、我々は戦後営々とスギやヒノキを住宅建築用材として使うために造林してきました。そして、柱や梁などのいわゆる在来軸組工法住宅の構造用材を生産するための施業を実施してきました。このあたりで、林業にとってもっとも川下の住宅展示場から、産業としての林業を見る必要があります。そこで地元材による住宅建材開発について、視点を変えて地域材の利用を考えてみました。木製が目玉の輸入住宅
最近は円高メリットを生かして、輸入住宅がもてはやされています。これでますます国産材を利用する機会が薄くなってきています。しかも皮肉なもので、日本にはない木製キッチンセットや無垢(むく)の木製フローリングを目玉にしています。さらに柱や梁は使用せず、木製の壁工法によるウッディーな住宅をイメージにしています。
輸入住宅は北米や北欧からの住宅で、現地の住宅スタイルをそのまま持ち込んでいます。すなわち住宅は木造であり、家具調度品も木製ということは、そのまま現地の生活スタイルそのものといえます。日本人が木製に新鮮さを感じるのは、現在の住まいが余りに木材から遠ざかっているからではないでしょうか。そしてそれ以上に、洋風になれ親しんだ若い消費者の感性が輸入住宅を要求していると思われます。国産材を活かし、現代にマッチした住宅・建材が求められています。輸入住宅・工業化木造住宅は未来の工法か?
そして注目すべきことは、現在の日本の住宅が柱と梁でできている軸組工法住宅なのに対し、輸入住宅は合板と枠材でてきた枠組壁工法住宅であることです。この工法は1974年に認可され、使用する枠材寸法からツーバイフォー(2×4)工法とも呼ばれています。
また、この工法は北米大陸の開拓と共に生まれた工法で、200年の歴史があります。米国の歴史は移民の歴史で、始めは故国英国の柱と梁によるティンバーフレーム工法住宅でした。しかし開拓と共に、合理的に簡易に建てる工法として幾多の試行錯誤を経ながらツーバイフォー工法が完成しました。そして今日本では 阪神大震災以降は耐震性が優れていると報道されたことから、ますます増える傾向にあります。
その米国住宅産業でさえ、日本の工業化住宅には注目しているようです。日本の大手工業化住宅メーカーは極めて合理的に幾多の建材をつくり、施工をしています。そして広告宣伝費にこの余力を費やして、客を獲得しています。
ツーバイフォーの北米で復活したティンバーフレーム復活した軸組工法ティンバーフレーム
軸組工法の行き着く先は枠組工法やパネル工法になるのでしょうか。米国の流れを見ると軸組工法の先行きを暗示しているかのようです。今までのような軸組主体の林業を進めるべきでしょううか。いつもこのような不安に駆り立てられています。
そのような折り、昨年米国の東部ティンバーフレーム住宅を見る機会に恵まれました。すべてツーバイフォー住宅となった米国で、20年前に復活したティンバーフレーム工法住宅はかなりの実績を重ね、現在北米各地で約100社存在しているといいます。ツーバイフォーの北米で軸組工法が復活した事実は、今後日本の軸組工法を考えるうえでヒントを与えてくれるのではないでしょうか。(県木連情報82、83号掲載)スギを身近で使う発想から
住宅工法の変化と並び注目すべきはスギの利用です。ヒノキ生産量1位の岐阜県でさえスギの畜積量はヒノキを越えています。そのスギは柱材として十分利用できる状況にあります。
しかし地元のスギは大半が原木のまま県外へ流れ、主にスギを使う北陸や関東へと流れます。また一部は大手木造住宅メーカーの柱材として無名で利用されています。県内でスギを考えるには、「よそ事ではなく自宅をスギで建てる」が如くに真剣に向き合うことが必要と思われます。たとえば梁、桁材や大壁の柱を断面を大きくしてスギに替えることから始めてみたら如何でしょうか。乾燥がすべてを救う
今までスギが使われてこなかったのには幾かの問題があるためとも言われています。弱い、心持ちは割れやすい、かびが生えてみっともない等々言われています。
しかし強度については断面を大きくするなどの対策さえすれば他の樹種と同等に使用できます。それ以外の諸々の問題は適切に乾燥することで全てが解決すると思われます。心持ちの割れですら高温乾燥で割れない乾燥が可能となります。
現在乾燥材が出てこない理由はコストがかかるためであり、問題は低コストでいかに効率良く乾燥するかにかかっています。それももうすぐ解決できる多くのヒントが生まれています。平成9年度から「地域産材の低コスト乾燥技術の開発」で効率乾燥のための分別システムを計画しています。今すべきこと
これからも軸組工法は残るでしょう。しかし利用する部材は変わっていくでしょう。集成材やLVL、OSLといったEW(エンジニヤリングウッド)の利用が増える中で、製材品のよさを確保しながら住宅を供給してゆく必要性があります。そのための技術や利用ノウハウを蓄積する時期にあります。
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