失われつつある軸組工法技術は未来の技術となる得るか(1)


(林産研究部)富田 守泰



 このたび10月1日から10日問、県の海外派遣研修により「米国のティンバーフレーム工法住宅の現状について」と題して、アメリカのニューイングランド地方を中心に訪問した。
 本研修は職員独自が企画立案するもので、海外旅行そのものがはじめての私にとって如何に計画するか、初めから全てが勉強であった。幸いにも木造建築研究フォーラムという木造建築に関する研究会員として知り合えた建築設計士の方に通訳として同行していただくことができ、極めて効率的に研修することができた。

なぜティンバーフレームか
 県内の林業は、主にスギやヒノキを軸組工法用住宅の柱や梁材などの構造材として、生産を進めてきた。しかしながら1974年にアメリカのツーパイフォー工法が認可されるとともに普通の軸組工法から次第に枠材と合板からなるツーパイフォー工法が普及し始めている。阪神大震災以降はその耐震性が優れていることからますます増加する方向にある。

 近頃、木材の研究者としていくつかの不安に駆り立てられる。このまま従来の柱生産のための林業を続けてよいものだろうか?軸組工法は廃れてゆく運命なのだろうか?日本の木造建築はこのままでいいのだろうか?試験研究のテーマを探る度にその不安は募ってきている。

 そのような折り、昼休みにふと見た前述の木造建築研究フォーラム機関誌に目が止まった。「西洋伝統木造事情−北米大工ギルドとの交流−」と題したその記事はだれしも一度は見たことのあるイギリスやドイツの柱立てのハーフティンバーのことをいい、北米ではアメリカ移民当時から19世紀初頭まで普通に立てられていた工法とその復活の記事であった。

 いまでこそツーパイフォー工法はアメリカ住宅の代名詞となっているが、この工法はアメリカの西部開拓や技術の急速発展による需要とともに徐々に開発された工法で、200年前まではアメリカにおいても「のみを使ったほぞとほぞ穴を木栓で止める木組みの世界」があった。ところが、合理性追求のため、ツーパイフォー工法に移行する各種工法の普及とともにティンバーフレーム技術は皆無となってしまった。

 しかしながら、皆無の技術が今再び活気を取り戻しているとのこと。20数年前、ちょうどべトナム反戦でアメリカのリバイバル風潮とともに復活したともいわれている。米国各地で約100社存在し、しかも驚くことにボランティアによって支えられた北米ティンバーフレーマーギルド(以下ギルド)という団体が存在し、ワークショップ(短期技能養成教室)により技能の研鑽が行われているのである。

 ツーパイフォーのアメリカで軸組工法が復活したという記事は今の日本の軸組の将来に一筋の光明を与えてくれたようであり、県内の軸組材料の用途を考える上ですばらしいヒントがあるように思われた。

現在のティンバーフレームとその立役者たち
 私はいったん廃れたティンバーフレーム技術を過去の建物の解体現場から学んだ三人のティンバーフレーマーに会うことができた。一人はJack A.Sorbon氏、もう一人はEdward M.Levin氏そして最後にTedd Benson氏でした。
 この三人は前述の北米ギルドの設立に関与した人たちで、私はそれぞれの現在の考え方についていくつかの質問内容を携え訪問した。

1 Jack A.Sorbon氏
 Jack A.Sorbon氏はマサチューセッツ州西部のWindsolという小さな町(中心街が10件程度)の町はずれに加工所兼自宅を構えていた。実はお会いする前に彼は「フレーマーでもあり歴史家である」という情報を入手しており、日本でいえば組み手の技術を極めたいという伝統職人タイプの人ではないかという先入観があった。
 彼は角材をおのとちょうなで丸太から製材するという。どれほどの時間でできると思う?と逆に質問があった。6mほどの20cm角材を山で切り倒し、搬出まで含めて12時間という。それで生活ができるのかとふと頭をよぎる。しかし聞けば2人で年間3〜4棟の住宅を施工するという。しかも原材料は自分所有の山からの搬出である。十分採算が合うのである。しっかりと見込みのある経営をしているのである。
 そこで「建築家、歴史家、フレーマーとしてなぜハンドメイドにこだわるのか」との質問に「過去の秘密を知りたい」とその童顔のロからこぼれた言葉はアメリカの懐の深さを私に改めて感じさせた。

2 Edward M.Levin氏
 もう一人のEdward M.Levin氏はちょうど自宅の増築の建て前の最中で話は聞けなかったが、気さくな人柄で対応してくれた。自宅の建て前だからというのかも知れないが、家族ぐるみでいかにも楽しんで仕事をする人のように見えた。
 ところで、建て前の現場で見た興味あるものの一つに榊がある。日本で言えば榊に御幣というところだがアメリカではモミの木を棟木に縛りつけるようだ。万国共通のこのしきたりにホッとし、隣人の建て前に来て御菓子でもごちそうになっているような錯覚をした一時であった。

3 Tedd Benson氏
 そして最後はTedd Benson氏。実は彼はアメリカで最も大きいティンバーフレーム会社Benson Wood Working(以下Benson社)を経営しており、前ギルド会長でもある。
 既に、Benson社の建築中の建物は連絡をとりながら2ヶ所見学していた。Boston郊外Lexingtonの農産物販売所、そしてConeticutの海岸にある島の石油・富豪の別荘地であった。事前に見て強く感じたのは日本の建築では一般的ではないリサイクル古材を多量に使用していることで、それを受け入れ、それに価値を見いだす社会環境が整っていることであった。Benson社と接触してからさらに建築後の建物を4ヶ所見ることができた。その内、最近数年の建築物のいずれもが古材を利用していることから、徹底したリサイクルに目を見張るものがあった。続く


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