(岐阜県森林研究所) 渡邉 仁志
森林のたより 2026年10月号掲載
本稿では前号に引き続き、ヒノキ林の下層植生に着目した森林管理の考え方を紹介します。表土流亡のリスクが低い植生タイプが明らかになったところで、下層植生の維持・回復に向けて、間伐がどのように寄与するかを複数の試験地で検証しました。
はじめに、従来の定性間伐(本数間伐率30%程度)では、林内の光条件の改善が不十分で、下層植生の回復は限定的でした(図2の黒塗りシンボル)。林冠の再閉鎖が速やかに進み、草本層の再発達やリターの堆積が十分に得られず、表土流亡の抑止効果が小さいためです。これに対し、強度間伐(本数間伐率50%程度)、群状間伐(20�u以上の小面積伐採)、列状間伐(6m幅以上、図省略)といった間伐では、光環境が大きく改善し、草本層を中心とした下層植生の回復が顕著に進みました(図2の白抜きシンボル)。これらの間伐手法は林床被覆の増加に寄与し、表土流亡の低減にも有効であると確認されました。
なお、急傾斜地やシカの多い地域では、間伐だけでは下層植生が十分に回復しないことも明らかになりました。シカによる採食圧が高い場合には、防護柵などの対策が必要であり、間伐時に発生する枝条を林内に散布する作業は、短期的ではあるものの林床被覆を補い、表土流亡の抑止に寄与することが確認されています。
ただし、これらの手法には課題もあります。群状・列状間伐は、伐採箇所以外への波及効果が限定的であるという点です。また、概ね10年以内に林冠が再閉鎖するため、下層植生の動態を注視しながら間伐周期を設定することが求められます。実際には、こうしたこまめな頻度の間伐が可能かどうかを踏まえ、間伐率の上限や間伐指針の見直しも検討すべき課題だといえます。その際には、林分の気象害耐性や防災機能に対する安全性を担保するためのデータ蓄積が不可欠であることはいうまでもありません。
以上の知見を踏まえ、過密なヒノキ人工林の生態的な管理方法を整理すると、まず下層植生タイプの把握が出発点となります。これは、林木の成長を主目的とする保育間伐とは異なり、光環境の維持を目的とした伐採を行うための判断材料として重要です。
はじめに、下層植生タイプがシダ型、ササ型、草本型であれば、従来の定性間伐を実施することが望ましいと考えられます。これらのタイプでは林床被覆が良好に保たれており、表土流亡のリスクが低いからです(前号の図1)。定期的な間伐により、下層植生を維持しつつ、水土保全機能を損なうことなく森林を管理できます。
一方、低木型では表土流亡の抑止効果が限定的であるため(図1)、光環境の改善を目的として強度間伐、群状間伐、列状間伐などの積極的な手法を検討します。この際、既存の低木層の被覆効果を損なわないよう、刈り払いなどの付帯作業は必要最小限にとどめることが重要です。
貧植生型は表土流亡の抑止効果が極めて低く、最も注意が必要です(図1)。光環境を大きく改善するため、強度間伐、群状間伐、列状間伐を導入します。さらに、間伐木の枝条散布や防獣柵などを併用し、下層植生の回復を早急に促す必要があります。
さらに、次回の間伐周期に下層植生の状態を再確認し、基準を満たさない場合には原因精査と追加対策を講じる必要があります。一方、植生が回復した林分は、この時点で木材生産林と環境保全林にゾーニングすることで、すべての森林で水土保全機能を保持しつつ、持続的な資源利用が両立できると考えられます。
最後に、再確認の際、林内に高木性種が侵入した場合にはじめて、混交林化や広葉樹林化の可能性が生まれますが、その実現には依然多くのハードルがあることを付記します。
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