下層植生タイプに基づくヒノキ人工林の生態的管理を考える(1)

(岐阜県森林研究所) 渡邉 仁志

森林のたより 2026年9月号掲載



はじめに

森林の公益機能を十分に発揮させるため、近年、全国で森林配置計画(ゾーニング)が進められています。岐阜県でも、森林を環境保全林と木材生産林に区分し、それぞれの目的に応じた施業を行うことが求めれられています。しかし、どちらの目的であっても、まずは林内の表土流亡(細土、礫、リターの流出)を抑え、地表面の安定化を図ることが重要だと考えられます。
 この表土流亡は、下層植生やリターによる林床被覆によって低減され得ることが知られています。しかし、壮齢期以降のヒノキ一斉人工林では、林冠閉鎖と林床の光量不足が進み、下層植生が衰退することで、他樹種に比べて表土流亡が継続して発生することが分かっています。県内人工林の多くをヒノキが占める状況を踏まえると、ヒノキ林を適切に管理する方法の確立は重要な課題です。
 そこで、本稿では2号にわたりヒノキ林の下層植生に着目した森林管理の考え方を紹介します。とくに、下層植生の維持・回復に向けて、どのような施業が有効なのかを、現場で活用できる形で整理します。

下層植生のタイプ分類(ササに注目して)

表土流亡を抑える効果は、下層植生タイプ(下層植生の優占種や植被率)によって大きく異なります。そこで、はじめにこれまでに明らかになっていた下層植生タイプに、「ササ型」を新たに追加し、各タイプの効果を再評価しました。ササ型とは、本州中部太平洋側の寡雪地域に分布するミヤコザサやスズタケが優占する植生タイプです。このタイプは、これまでに効果の検証や他の植生型との比較が十分に行われておらず、位置づけが明確ではありませんでした。
 岐阜県南部のヒノキ林で行った多点調査では、ササ型は、草本型、低木型、貧植生型よりも出現する標高が限定的であり、シダ型より高標高域に分布する傾向が確認されました。また、出現する林分の収量比数は高い傾向にあり、混み合って過密な林分にもみられました(図1a)。これまでの研究によれば、暖温帯域のように常緑木本やシダ型の下層植生タイプが分布しないため、冷温帯域では、光条件が悪化して草本や落葉木本が生育できなくなると、貧植生型しか成立しないといわれていました。しかし、標高約400〜1,000mという相対的に標高が高い地域において、林分疎密度が高く光条件がやや悪化した環境下にも、ササが優占する植生タイプが出現し得ることが示されました。
 ササ型の特徴をみると、全層の植被率は、草本型や低木型と同程度でしたが(図省略)、地上高60cm未満の草本層に限れば、シダ型と同等に高い傾向がありました(図1b)。ササ型は、葉層とリター層が重層的に地表を覆っているため、表土流亡の抑止効果が高いとされるシダ型と同様に、表土流亡が発生しにくいと推測されます。
 これらのことから、表土流亡の発生リスクは、シダ型=ササ型≦草本型<低木型≪貧植生型の順に高くなりました(図1c)。このことは、ヒノキ林下における表土流亡リスクは一様ではなく、下層植生タイプによってそのリスクが大きく異なることを示しています。さらに、下層植生を適切に管理すれば、そのリスクが低減できる可能性も示唆されました。したがって、現場の下層植生タイプの正しい把握が、施業方針を検討するうえでの出発点となります。
 次号では、これらの結果を踏まえたうえで、下層植生を維持し、表土流亡を防ぐためのヒノキ人工林の管理方法を提案します。   
図

図1 下層植生タイプ別の収量比数(a)、草本層(b)の植被率合計、および土壌侵食危険度指数(c)