(岐阜県森林研究所) 茂木 靖和
森林のたより 2025年11月号掲載
戦後造林された人工林を中心に本格的な利用期を迎えており、今後主伐の増加が見込まれる中、再造林に必要な苗木の安定供給が求められています。
岐阜県内で生産される造林用苗は、ほとんどが実生苗です。
実生苗の生産には、発芽能力を有する成熟した種子が必要です。
このため、主要な造林樹種の種子採取開始日は、未成熟な種子の採取を回避する観点から、法律によって定められています。
しかし、近年、気候変動によると考えられる夏季の気温上昇が顕著です。
また、ヒノキやカラマツでは球果の裂開などの時期が、これまでとは異なる現象がみられています。
両者の因果関係は明らかにされていませんが、関連する可能性があります。
そこで、主要造林樹種の球果の裂開時期や種子発芽率の経時変化等を全国的に調査することになり、岐阜県ではヒノキの調査を実施しました。
調査地は、本県で生産されるヒノキ実生苗の大部分の種子を供給している白鳥林木育種事業地のヒノキ採種園(種子を採るための樹木園)としました。 まず、2024年5月に40個以上の球果を確認した13系統を調査木として選定し、着果枝に0.8mm目のポリエチレン製カメムシ対策用ネットを設置しました(図1)。
次に、調査木から10個の球果を4回(8月21日、9月2日、9月20日(法律で定められた開始日)、10月1日)採取し、球果の状態(図2)及び裂開の有無について記録しました。 その後、球果を乾燥して種子を取り出し(図3)、毎回系統毎に50粒ずつ3回の発芽試験(図4)を行いました。
発芽率の推移は、8月21日から50%を超えた系統(Aパターン)、8月21日が50%未満で球果採取日が遅くなるにしたがって上昇傾向がみられた系統(Bパターン)、9月20日には上昇したが10月1日には上昇しなかった系統(Cパターン)の3パターンに分類されました(図5)。 種子採取を早めなければならない現象の一つである球果の裂開が見られた系統はBパターンにのみ見られました。 この系統は、8月21日の発芽率が低く球果採取日が遅いほど発芽率が高かったことから種子採取開始日を現行のままにしないと、発芽率の高い種子を採取できないと考えられました。 また、AおよびCパターンの系統は裂開した球果が無かったことから、種子採取開始日が現行のままでも大きなデメリットにはならないと考えられました。
今回の本県の調査結果からは、種子の採取開始日を9月20日より早める必要はないと考えられました。 しかし、年次変動があるので、この調査は最低でも3年間の継続が予定されています。 今後も今回と同様の調査を行い、他県などと連携して、ヒノキ種子の成熟時期が早まっているか否かを見極めて、適切な種子採取開始時期に反映させたいと思います。
本稿に掲載されたデータは、林野庁委託事業で収集したデータを、林野庁の許可のもと使用しております。