コンテナ苗は低コスト?(X)
−ヤシ殻に替わる培地基材の開発−

(岐阜県森林研究所) 茂木 靖和

森林のたより 2025年6月号掲載



現在、岐阜県内で生産されるヒノキコンテナ苗の多くは、培地(培養土)の基材にヤシ殻を使用しています。しかし、ヤシ殻は海外産のため、海外情勢によって調達が滞る可能性があります。実際令和4年には、海運業界の混乱からヤシ殻の調達予約ができない時期がありました。幸い、苗生産開始時にはヤシ殻が入荷され、通常どおり苗生産できましたが、今後の不安が解消されたわけではありません。そこで、ヤシ殻に替わる培地基材を、岐阜県内で入手しやすい資材から作り出せないか検討を開始しました。

1.試験方法

コンテナ苗の培地基材をバーク堆肥(岐阜県内工場で加工された樹種未特定で、ホームセンターの販売品、図1(a))、またはキノコ廃菌床(岐阜県内のブナシメジ生産施設で発生したもの、図1(b))に変えてヒノキコンテナ苗を育成し、ヤシ殻(図1(c))で育成したものと比較しました。また、その際に植栽後の成長促進に効果のあった溶出日数700日の緩効性肥料の添加割合を10、20、40g/Lに変えた試験区を設定し、苗の成長が培地基材だけでなく施肥(元肥)量によって、変わるのかについても検討しました。
 

  
図1 試験に用いた培地基材
図1 試験に用いた培地基材

2.試験結果

種をまいてから一か月程度経過した5月に、樹高2cm前後になったヒノキ実生を、培地を詰めたコンテナへ移植して、その後約13ヶ月間、ミスト室で育成した時の苗生存率を図2に、苗サイズ(樹高、根元直径)を図3に示しました。

  
図2 生存率 図3 苗サイズ

生存率は、すべての施肥量で、ヤシ殻よりバーク堆肥、キノコ廃菌床が低く(図2)、ヤシ殻が優れていました。樹高は、すべての施肥量で、キノコ廃菌床ではヤシ殻より小さく、バーク堆肥ではヤシ殻と大差ありませんでした(図3(a))。根元直径は、キノコ廃菌床ではすべての施肥量で、バーク堆肥では施肥量10g/Lでヤシ殻より小さく、40g/Lでヤシ殻と同等以上でした(図3(b))。また、すべての培地基材で、施肥量が増えると樹高および根元直径が大きい傾向がみられました。特にバーク堆肥の根元直径でその傾向が顕著でした(図3(a)(b))。

今回の試験で施肥量40g/Lのバーク堆肥では、苗サイズがヤシ殻に劣りませんでした。また、生存率は90%で、同一施肥量のヤシ殻には劣りましたが、施肥量10g/Lのヤシ殻とは同等でした。このことから、バーク堆肥は施肥量によってはヤシ殻の代替資材として有望と考えられます。

今回は、培地の基材を一種類に限定した検討でした。今後は複数の基材を組み合わせた検討を行っていく予定です。その中にはヤシ殻を超える培地基材条件が存在するはずです。それが実在すればその時の資材は、運搬コストが安い県内産のため、コスト削減も期待できます。最近、コンテナ苗と裸苗の初期成長が変わらないことが報告されるなど、コンテナ苗を用いた再造林技術が低コストにならない事例が蓄積されつつあります。それらを払拭するためにも、この技術開発を早期に実現させたいと思います。