(岐阜県森林研究所) 片桐 奈々
森林のたより 2025年3月号掲載
苗木をシカの食害から保護するツリーシェルター(以降、シェルター)は、高さや支柱の本数、構造や素材など多様な仕様で市販されています。これらの中からあなたが選んだシェルターの仕様は、本当にシカの食害を防止できるのでしょうか。今回は食害防止に効果的なシェルターの高さについて考えます。
一般的にシェルターを購入する際、高さを140〜170cmから選ぶことができます。150cm高のチューブ型と170cm高のネット型のシェルターを同所的に設置したヒノキ植栽地(図1)における食害の発生状況を植栽後、毎年3月に調査しました。試験地は瑞浪市で積雪は非常に少なく、平均傾斜が約23度です。雑木に対するシカの食痕や糞が見られ、頻繁にシカが訪れていると思われます。
まず苗木は両シェルターとも植栽から2年後には、多くが樹高150cm以上となりました(図2)。シェルター内から梢端が抜け出た苗木は、150cm高のチューブ型では約8割、170cm高のネット型では、約4割です。これらのシェルター高を超えた苗木は、150cm高のチューブ型の約2割で主軸を食害され、170cm高のネット型では食害されませんでした(図3)。
平均傾斜23°の場所では、150cm高のシェルターより上部にシカの口が届いたと考えられます。このような食害はシカの生息密度が高くなるほど深刻になると推測されます。また急傾斜ほど、積雪深が高いほどシカの口が届く高さは高くなると考えられます。岐阜県の場合、150cm高のシェルターでは苗木を食害から保護できない場所の条件がありそうです。また主軸を食害されても軽度の食害であれば成長に与える影響は小さいと考えられます。今後も苗木が食害を受け続けるか、それとも問題なく成長できるか、追跡調査する予定です。
![]() |
![]() |
![]() |
図1 ツリーシェルター試験地 a:高さ150cmのチューブ型 b:高さ170cmのネット型 c:試験地の遠景(左側がa、右側がb) |
図2 各ツリーシェルターの高さまで 成長した苗木の本数割合 |
図3 植栽2年後に各ツリーシェルター内から 梢端が抜け出た苗木のシカによる食害割合 |
シェルターは高さが高くなるほど価格が上がり、設置の労力は増します。しかし食害防止効果の低いシェルターを選ぶと森林が成立しない可能性が高まります。選んだシェルターが設置場所で十分な効果を発揮するか、慎重に考える必要があります。