枝条積みの上の広葉樹

(岐阜県森林研究所) 宇敷 京介

森林のたより 2024年2月号掲載



はじめに

近年、環境保全林では、広葉樹の侵入を促した多様な森林づくりへの要請が高まっています。しかし、林業において広葉樹は、厄介者として徹底的な下刈りや除伐により排除されてきたこともあり、導入・育成・管理のための知見はほぼありません。間伐により、広葉樹の侵入を促す研究は幾つかありますが、林冠の再閉鎖に伴う照度不足といった課題があります。
  今回は、照度は十分に確保できると考えられる、皆伐地に侵入、定着していた広葉樹から、成立していた理由を考えてみようと思います。

ヒノキと広葉樹が混在する林

調査地は、中津川市の冷温帯(標高980m)にある9年生のヒノキ再造林地です。空から見ると、ヒノキの植栽列(以下、植栽区)と広葉樹が生育する列が交互に並んでいます(図.1)。
  林地に入ると、広葉樹は、伐採時に林地に残った枝条を集積した場所(以下、枝条積み区)の上に成立していました。この枝条積みは、通常、植栽や下刈りを行わない除地になっています。植栽区では、植栽してからの4年間、下刈りをしました。

       
図.1 上空から撮影した調査地 実線が枝条積み区、破線が植栽区
図.1 上空から撮影した調査地
実線が枝条積み区、破線が植栽区

植栽面と枝条積みの広葉樹の比較

枝条積み区と植栽区のヒノキ及び広葉樹について樹種や樹高、胸高直径を調査しました。まず、両区のhaあたりの胸高断面積合計(以下、BA)を図.2に示します。BAは、ある林においてその樹種がどのくらい幅を利かせているかの指標になります。
  植栽区に対して、枝条積み区の広葉樹のBAは8.4倍、高木に限ってみると、10.6倍でした。植栽区は、広葉樹が占めるBAの割合は1割にも届かず、ヒノキがほとんど占めていました。続いて、樹高をみると、枝条積み区では、樹高550〜750pのウダイカンバやミズメが林冠木となっていました。一方、植栽区では、樹高500〜650pのヒノキが林冠木となり、その下にエゴノキなどがわずかに存在していました。

     
図.2 ha当たりのBA
図.2 ha当たりのBA

枝条積みの上の広葉樹

枝条積みの上に広葉樹が成立した理由を考えてみます。枝条積みは、植栽や下刈りがありません。そのため、種子供給や萌芽更新があれば侵入が可能で、植栽木によって光が遮られず、下刈りもないので、一度、侵入した広葉樹が残存しやすい環境だったと考えられます。
  今後は、広葉樹の樹種間での競争が始まると予想できます。継続して調査し、樹種特性に応じた更新の動態を明らかにする必要があります。また、侵入の過程についても、確認する必要があります。
  これらを明らかにすることで、天然更新した広葉樹を合理的に管理していくうえで、重要な知見になると考えます。