ツリーシェルターがヒノキ苗木の成長に及ぼす影響

(岐阜県森林研究所) 大橋 章博

森林のたより 2023年10月号掲載



はじめに

ニホンジカの食害対策の一つとしてツリーシェルター(以下、シェルター)が使われています。シェルターには多くの製品があり、設置場所に応じた使い分けができるとよいのですが、各資材の特徴を十分に把握できていないのが現状です。
  そこで、タイプの異なるシェルターを植栽木に設置して、苗木の成長に及ぼす影響等について調査を行っています。スギ苗木への影響について本誌818号で紹介しています。今回はヒノキ苗木への影響について報告します。

苗木の成長経過

試験は多治見市内のヒノキ造林地で行いました。試験区は、ハイトシェルター(以下、ハイト)、幼齢木ネット(以下、幼齢木)2種(図1)とし、各100本ずつ設置しました。また、同一斜面に設置した防鹿柵内から同時期に植栽したヒノキ苗100本を選び、無処理区としました。
  植栽後5年間の苗木の成長経過を図2に示します。

       
図1 使用したツリーシェルター 左:ハイトシェルター、右:幼齢木ネット
図1 使用したツリーシェルター
左:ハイトシェルター、右:幼齢木ネット
     
図2 樹高、根本直径、比較苗高の推移
図2 樹高、根本直径、比較苗高の推移

樹高は、ハイトが199p、幼齢木が176pに対し、無処理が129pと、シェルターを設置した試験区で明らかに大きくなりました。
  根元直径は、幼齢木が21o、無処理が19oに対し、ハイトは15oと、大きな差が見られました。このような差が生じた原因として、ハイトはシェルター本体の直径が小さいこと、シェルター内では風などの影響を受けにくいことから、根の発達や幹の肥大成長が促進されなかったことが考えられました。これに対し、幼齢木はシェルター本体の直径が大きく、風を通すこと、支柱に弾性があり幹が揺れやすいことから幹の肥大成長が進んだと考えられます。

苗木の健全度の指標となる比較苗高(樹高/根元直径)は、無処理では年々低下し、5年後には69となったのに対し、シェルター設置区では顕著な低下は見られず、ハイトは130と非常に高い値となりました。
  とはいえ、どの資材も5年後にようやくシェルターの高さ170cm)に達したばかりです。スギの結果では、樹高がシェルターの高さを超えた頃からハイトの樹高を他のシェルターが上回ったように、樹高成長や肥大成長に変化が見られ、どの資材も比較苗高は低下してきました。ヒノキではどうなるか観察していく必要があります。

おわりに

ヒノキは梢端が柔らかく、垂れることから、シェルターを設置すると樹形異常が発生しやすいと言われています。この試験地では、幼齢木で毎年数%程度梢端曲がりが発生しています。しかし、多くの場合、早期に曲がりを修正することで正常に戻ります。ハイトは梢端曲がりの発生割合は低いのですが、シェルター内を見通せないので、樹形異常の発生を判別し難いことが欠点です。
  やはりシェルターを設置した後は、定期的に見回りを行って、樹形異常の発生を早期に発見し、対処することが大切です。