岐阜県におけるヒノキの晩秋植栽を考える

(岐阜県森林研究所) 渡邉 仁志

森林のたより 2023年9月号掲載



はじめに

低コストで確実な再造林が求められるなか、「植栽時期を選ばない」といわれるコンテナ苗の導入が進められています。その反面、県央の寒冷地域では、10月以降(以下、晩秋)に植えたヒノキのコンテナ苗が集団で枯損する事例が発生し、中には活着率が1%以下だった場合もありました。活着率が低い場合は補植や改植が必要になるため、低コストを目指す再造林には逆行します。そこで、植栽時期と越冬環境がヒノキ苗の活着に及ぼす影響について報告します。

標高別の晩秋植栽調査

調査は、飛騨地域の標高の異なる五地点(標高610〜1200m)で行いました。対象地域は中央分水嶺の南側にあり、日本海側の多雪地域と太平洋側の寡雪地域の中間にあたります。用いた苗木は、苗齢31ヶ月のヒノキ実生コンテナ苗(※)で、植栽時期は晩秋(11月下旬)を共通とし、ほかに1地点では植栽時期の影響をみるため、春(25ヶ月苗)と夏(27ヶ月苗)にも植栽しました。また、越冬環境を評価するため、気温、地温、積雪深をモニタリングし、植栽翌秋に活着率と下枝枯れの発生状況を調べました。
※県内のヒノキ・コンテナ苗は、2年目春(約24ヶ月目)に出荷される。

植栽時期別の活着率の違い

苗木の状態を植栽時期ごとに比較すると(図1a)、春や夏に植えれば活着成績は良好で、状態もよいことが分かりました。一方、晩秋に植えた場合の活着率は85%以下で、下枝の枯損率も高く、健全個体の割合は低い水準にありました。対象地域であっても適切な時期に植栽すれば、苗木の大量枯死は発生しないと考えられます。つまり活着不良の原因は、場所の問題だとはいえません。

晩秋植栽の環境と苗木への影響

越冬環境をみると、積雪期間は、最北部にある1,170m区で約80日間、その他で20日間前後であり、どの地点も少雪傾向でした(図2)。また、積雪期間が長かった1,170m区以外では、最低地温がマイナス5〜10℃の期間が12月中旬〜3月上旬まで連続し、土壌の凍結が発生していたと考えられます。
  晩秋に植えた苗木の活着率(図1b)は、高標高ほど低下し、生存個体も下枝の枯損が顕著でした。苗木には移植そのものが大きな負担です。そのうえ晩秋植栽では、根が地山に活着する間もなく、低温と土壌凍結による乾燥という過酷な環境に冬の間じゅう晒されます。このため、コンテナ苗であっても、越冬環境が過酷であるほど、枯死率が高まると推測されます。
  そのうえ、晩秋植栽の苗は、植栽後の成長不良を起こす可能性があります。育苗が長期に及ぶことによって、苗木の高さと太さのバランス(樹高/根元直径=比較苗高)が悪くなるからです(本誌768号参照)。低コスト再造林の実現には、下刈り回数の低減が必須であり、成長停滞は好ましくありません。晩秋はこのことからも、植栽時期として適していないといえます。

 

日本海側のような多雪地域では、積雪が苗木を保護するため、晩秋植栽が有利な場所があります。対して県内には、多雪地域と寡雪地域の境界上に、少雪で寒冷な地域が広く分布します。このような地域は、降雪量のばらつきが大きく、かつ積雪期間が限られるため、去年は、または同じ地域では大丈夫だったからといって、今度も大丈夫だという保証はありません。さらに、冬期の寒風害がもともと起きやすいといわれている地域でもあるので、苗木の保護には特に慎重を期す必要があります。
  これに対して、植栽時期を翌春にすれば、枯損リスクが格段に低減するうえ、高品質なコンテナ苗の利用によって、植栽後の成長が促進されるため、低コストで確実な再造林が実現します(本誌792号参照)。コンテナ苗であっても、植物生理や地域特性を尊重し、それらに適合した合理的な時期に植栽する必要があります。

     
図1 植栽後の活着率の評価 図2 1200m区における積雪深は20pに満たなかった。
図1 植栽後の活着率の評価 図2 1200m区における積雪深は20pに満たなかった。