花の形の意味を考える

(岐阜県森林研究所) 宇敷 京介

森林のたより 2023年5月号掲載



はじめに

皆さんは、花というとどのような形を思い浮かべますか。タンポポのようにお皿に似た形の花、ツバキのようにお椀に似た形の花、ツリガネソウのような鐘に似た形の花など、花といっても様々な形をしています。

植物にとって花とは

植物にとって花とは繁殖器官、つまり、子孫を残すための非常に重要な器官です。基本的な構造は外側からがく、花びら、おしべ、めしべと並んでいます。おしべの先に花粉があり、それがめしべの先の柱頭に付着して受粉します。植物は自分で動くことはできないので、花粉を風や動物(虫や鳥)を利用して運んでもらう必要があります。特に、動物に運んでもらう場合、動物が訪れるような魅力(蜜や匂い)と訪れた動物に花粉をつける仕組みが必要です。

花の形と送粉者の関係

花の持つ魅力の1つである蜜は、花に訪れる者にとってのご馳走であり、花粉を運んでくれる者(送粉者)のために用意したものです。蜜をつくるのはただではないので、花は送粉者のみが蜜を得られるように工夫します。また、送粉者も花から蜜を得ることができるような体のつくりを備えています。

ツリフネソウを例に考える

ツリフネソウはやや明るい湿った林縁に生える草本で、花は筒状で紅紫色をしています(図1)。分解すると、図2のように構成されています。筒状になったがくの奥は細く巻き、奥に蜜を貯めています。訪れた昆虫が蜜を得るには、筒に潜り込み、奥まで届く長いストロー状の口を伸ばす必要があります。過去の研究から、ツリフネソウの送粉者はトラマルハナバチ(以下、トラマル)と報告されています。実際、野外で観察するとツリフネソウを訪れる昆虫の多くはトラマルでした(図3)。トラマルは、前面に垂れ下がった2枚の花びらに着地し、筒に潜り、中でストロー状の口を伸ばして蜜を吸っていました。訪花したトラマルはおしべ、めしべと接触し、オレンジ色の毛で覆われた胸の背面は花粉で白くなっていました。
  このことから、ツリフネソウはその花の形により、花に訪れ、蜜を獲得できる昆虫とその昆虫の行動を制限し、繁殖していました。
  ここではツリフネソウを例として送粉者との関係から花の形を考えてみました。実際の野外ではトラマル以外にも、他のハナバチやミツバチ、ガの仲間、鳥類などが様々な花の送粉者を担っています。送粉者の形が様々あるので、それに応じて花の形も多様であるのです。

         
図1 ツリフネソウの花 図2 分解したツリフネソウの花 3つの花びらと3つのがく、おしべ、めしべで構成 図3 ツリフネソウに訪花するトラマルハナバチ
図1 ツリフネソウの花 図2 分解したツリフネソウの花
3つの花びらと3つのがく、
おしべ、めしべで構成
図3 ツリフネソウに訪花する
トラマルハナバチ

おわりに

植物と動物の関係は、ここで紹介した送粉の他にも、種子散布などで密接に関係しています。最近の岐阜県の森林づくり基本計画では、針広混交林への誘導が施策に盛り込まれています。広葉樹が生態系の中でどのような生育をしているのかを把握していくことは、今後の広葉樹の更新を図る上で重要な知見となると考えています。