針葉樹人工林における貧植生箇所を広域的に把握する取り組み
〜航空レーザ測量データの利用〜

(岐阜県森林研究所) 久田 善純

森林のたより 2022年12月号掲載



はじめに

間伐が遅れた人工林では、混んだ林冠が光を遮って林床まで光が届かず、下層植生が衰退してしまう場合があります。森林の水土保全機能を維持する上で下層植生の発達は重要であり、林床の光環境を改善し植生の回復を図ることも、間伐の重要な目的の一つです。 そこで、下層植生の状態を踏まえた間伐計画を立てられるようにするため、ヒノキ林を対象に貧植生(下層植生が乏しい)箇所を広域的に把握する手法の開発に取り組みました。

航空レーザ測量データの解析

森林の状態を広域的に捉える方法の一つとして、航空レーザ測量があります。これは、図1の模式図のように航空機から照射したレーザパルスが地物に反射した状況を計測することによって、地形や建造物、森林等に関する様々な情報を得る方法であり、おおよそ県全体の森林が測量されています。
  図1に示すとおり、林冠が混んでいる林では、パルスが地表面まで届かない場合があります。これを、 "鉛直方向からの光が地表面に届かない状態 "に似ていると考えて、林床の光環境が悪く貧植生である箇所の指標として使えるか検証を行いました。

         
図1 レーザパルスが地物に反射する模式図
図1 レーザパルスが地物に反射する模式図

パルスの地上到達率(=単位面積あたりにおける全照射パルス数のうち地上3m以下に到達した数の割合)を算出して図化したものが図2です。これを様々なヒノキ林の現地と比較したところ、ヒノキ林Bのような貧植生の箇所では、パルス到達率が全て1.5%以下になりました(注:今回使用した測量データにおける結果であり、測量時の仕様によりこの閾値は変わると思われます)。
  つまり、パルス到達率1.5%以下のメッシュ(図では黒〜灰色)とヒノキ林範囲とをGIS上で重ね合わせると、「貧植生である可能性が高い」箇所を示すことができます。但し、尾根筋や林道脇では側方からの光が入り、パルス到達率が低くても植生が発達している場合がありました。今後も各地域の事例を収集しながら、地形等の諸条件によって貧植生箇所把握の精度がどう変わるのか検証していく必要があります。

  
図2 レーザパルスの地上到達率(3m以下、1mメッシュ単位)と現地の林床の様子(ヒノキ人工林)
図2 レーザパルスの地上到達率(3m以下、1mメッシュ単位)と現地の林床の様子(ヒノキ人工林)

なお、この取組みは岐阜大学との共同研究により行ったものです。岐阜大学では、航空レーザ測量データを用いて、下層植生の高さや植被率の評価に取り組むなど、さらに発展的な研究が行われています。