ツリーシェルターはいつ外せばよいのか?

(岐阜県森林研究所) 大橋 章博

森林のたより 2022年10月号掲載



はじめに

岐阜県下ではニホンジカの個体数が増加しており、スギ、ヒノキの植栽時にツリーシェルター(以下、シェルター)を利用するケースが増えています。シェルターに関する問い合わせで多いのは、「いつ、シェルターを外せばいいのか?」といったものです。
  そこで、今回はシェルターを取り外すタイミングについて考えてみます。ここでは紙面の都合もあり、現場で使用例の多いハイトシェルターEX(以下、ハイト)の場合に限定して紹介します。

シェルターを取り外せる条件

シェルターを取り外すことができる条件は、1.植栽木の主軸がシカの食害を受けない高さまで十分に生育していること、2.シェルターの支柱を外しても倒れない程度に生育していること、の2点です。
  シカの食害を受けない高さは、一般的に1.5m程度ですが、斜面山側から食害する場合を考慮し、樹高が2m以上になっていれば食害を受けないと仮定します。図1は郡上市内に設定したスギ植栽試験地で、植栽6年後における樹高の頻度を示したものです。ほぼすべての植栽木が2mに達しており、1番目の条件は6年目には満たしています。

      
図1 樹高の頻度分布
図1 樹高の頻度分布

2番目の条件について検討するため、根元直径と形状比との関係を図2に示しました。形状比とは、樹高を胸高直径で割った数値で、この値が小さければずんぐり型、大きければ細長い樹形のように、樹木の形態の指標となるものです。一般に70以下になると雪害や強風で折れにくいとされています。この試験地では、根元直径は2.2〜12.2cmと成長差が見られ、根元直径が小さな木では形状比が100を大きく超えています。このような状態でハイトを外せば多くの木が強風や積雪で倒れる恐れがあります。
  であれば、ハイトを外しても大丈夫な大きさになるまで待てばよいのですが、多雪地用のハイトを使った場合には、そこまで待てません。多雪地用は支柱2本でハイト本体を挟んで設置する構造となっており、支柱と支柱の間隔は10cm程度しかありません(図3)。このため、支柱の撤去が遅れると、木は支柱を巻き込んで成長していきます。植栽木の多くがシェルターを取り外せるまで待っていると、生育の良い木は支柱を巻き込んでしまいます。このような理由から、一度にまとめてハイトを取り外すのではなく、十分成長した木から順にハイトの取り外しを行う必要があります。そこで、今年の春、幹と支柱に隙間がなく、このままでは支柱を巻き込む恐れがある植栽木について、支柱を撤去しました(図2に赤丸で図示)。これらの形状比はおおむね80以下で倒伏の恐れは低いと考えていますが、継続して調査していく必要があります。

  
図2 根元直径と形状比の関係
図2 根元直径と形状比の関係

 冒頭の質問「いつ(ハイト)シェルターを外せばよいのか?」の答えとしては、植栽後〇年後に外すのではなく、根元径8cm位(根元径では測定が面倒なので、今後はハイトの高さの直径に読み替えるようにします)を目安として、十分に大きくなった木からシェルターを外すのが良い、となります。

  
図3 シェルターの構造
図3 シェルターの構造

さいごに

ハイトを外す際、先ずは支柱と固定リングを外し、ハイト本体はしばらくの間、そのまま残しておきましょう。シカの密度が高い場所では、ハイト本体も外してしまうと、樹皮を食害される事例が見られるためです。施業する側からは本体を外す手間が増えることになりますが、剥皮害を防ぐために是非おすすめします。
  今回はハイトについて紹介しましたが、他のシェルターでも取り外す時期に差こそあれ、同様の考え方で、十分に大きくなった木から順に外すのがよいと考えています。