一億円産業への再成長を目指して3 -高原山椒優良苗育成の実用化-

(岐阜県森林研究所) 茂木 靖和

森林のたより 2022年8月号掲載



本誌791号(2019年8月)では、樹勢が低下して挿し木材料の採取が困難になった株からも、少量の材料からクローン苗をつくり出すことができる組織培養による苗育成を紹介しました。しかし、この方法では専用施設が必要なことから、現地(高山市奥飛騨温泉郷)での苗生産が困難です。そこで、組織培養で育成した苗を現地圃場へ植栽し、挿し木材料採取用母樹にすることで、高原山椒の優良苗を現地生産できないかと考えました。

1.挿し木材料採取用母樹

現地圃場へ植栽した苗は、かつてこの地で接ぎ木苗に利用されていた株の枝から組織培養により増殖したものです。2018年6月に植栽し、植栽後3年が経過した2021年7月に初めて、挿し木材料に適する30cm以上伸長した当年生の充実枝を10本程度採取できるようになりました(図1)。

  
図1 母樹から採取した挿し木材料(2021年7月14日)
図1 母樹から採取した挿し木材料(2021年7月14日)

2.挿し木の検証と実用化

1.で採取した材料を用いて、2種類の挿し床(鹿沼土(図2(a))、固化培土(図2(b))に挿し木を行いました。その結果、固化培土の挿し床では穂木発根率が挿し木の実用レベルといわれる穂木発根率70%に達すること(図3(b))を確認しました。
  また、固化培土の挿し床では、通常の鹿沼土より、挿し付け作業(穂木の根元押さえが不要)と発根の確認が容易(穂木を培土から抜き取らなくても確認可能、図3(a))で、育苗へ移行時の穂木のストレスが少ない(培土つきで移植できるので根が乾燥しにくい、図3(a))といった利点を享受できます。本技術の実用化に当たって、固化培土を挿し床に用いることが、適していると考えられました。

      
図2 挿し床に鹿沼土または固化培土を用いた挿し木(2021年7月16日)
図2 挿し床に鹿沼土または固化培土を用いた挿し木(2021年7月16日)
   

3.今後の予定

2022年度には、30cm以上伸長した当年生の充実枝が50本以上に達する、挿し木材料採取用母樹として本格的に利用可能な株が複数みられるようになりました。
  今後は、挿し床を固化培土に固定し、材料の採取時期を変えた挿し木とその後の育苗の結果から、本技術の再現性の確認とさらに得苗率の高い挿し木技術を開発することで、かつて販売額一億円といわれたこの地域の山椒栽培の再成長に貢献したいと考えています。

  
図3 挿し床に鹿沼土または固化培土を用いた挿し木の結果(2021年8月30日)
図3 挿し床に鹿沼土または固化培土を用いた挿し木の結果(2021年8月30日)