ツリーシェルターがスギ苗木の成長に及ぼす影響

(岐阜県森林研究所) 大橋 章博



岐阜県下ではニホンジカの個体数が増加しており、植栽する際には防鹿柵ツリーシェルター(以下、シェルター)による対策が必要となっています。防鹿柵では資材が破損すると対象地内の全植栽木が被害を受ける危険性があることから、シェルターを選択するケースが増えています。 シェルターには多くの製品があり、設置場所に応じた使い分けができると良いのですが、各資材の特徴を十分に把握できていません。
  そこで、タイプの異なるシェルターをスギ植栽木に設置し、苗木の成長に及ぼす影響等を調査しています。今回はその結果を紹介します。

苗木の成長過程

試験は郡上市大和町内のスギ造林地で行いました。使用したシェルターは、ハイトシェルターHS(以下、ハイト)、サプリガード(以下、サプリ)、幼齢木ネット(以下、幼齢木)の3種で(図1)、各100本ずつ設置しました。
  
ハイトシェルターHS サプリガード 幼齢木ネット
   図1 使用したツリーシェルター
左:ハイトシェルターHS、中:サプリガード、右:幼齢木ネット

植栽後5年間の苗木の成長経過を図2に示しました。樹高は、どの資材でも3年後にはシェルターの高さ(170cm)を超え、5年後には3mを超えるなど、同様な傾向を示しました。根元直径は、シェルターにより差が見られ、 5年後には、幼齢木で53.1mmであったのに対し、ハイトでは36.5mmと大きな差が見られました。苗の健全度の指標となる比較苗高(樹高/根元直径)は、5年後に幼齢木では65.8に対し、ハイトは90.4と非常に高くなりました。 スギ苗の比較苗高は通常40〜60程度であることと比較すると、ハイトは、かなり高い値です。これは、苗木がシェルターと支柱に常に支えられていることで根の発達や幹の肥大成長が促進されなかったためと考えられます。 現状のままでは自立することは難しく、ハイトの撤去時期は他に比べ遅くなると考えられます。

    
図2 樹高、根元直径、比較苗高の推移
  
  図2 樹高、根元直径、比較苗高の推移

次に、資材の破損状況をみると、幼齢木ネットは資材を設置した1年目の冬に積雪により支柱が55本破損する被害を受けました。(本試験では、支柱を交換して試験を継続)。また、5年目の冬には雪で倒伏する被害がハイトで14本、 サプリで4本、幼齢木で8本発生しました。雪害の発生には微地形が大きく影響するので、今回の結果だけで資材による雪害の受けやすさを一概には判断できません。しかし、支柱が細い幼齢木や比較苗高が高いハイトが雪害を受けやすいことは確かなようです。
  一方で、サプリはネットの目合いが6mmと大きいため、枝の飛び出しが多く発生し、他の資材と比べて樹形異常を招きやすいことがわかりました。

おわりに

各資材には一長一短があるので、各資材の特徴を理解した上で設置すると共に、設置後は定期的に見回りを行って、樹形異常や雪害の発生を早期に発見し、対処することが必要です。