花粉症の軽減を目指してV-岐阜県産少花粉ヒノキ品種益田5号の組織培養による山行苗育成-

(岐阜県森林研究所) 茂木 靖和



はじめに

花粉症を軽減するため、当所では岐阜県産少花粉ヒノキ品種のクローン苗を効率的に育成するための技術開発を行っています。これまでにその取り組みとして、本誌695(2011年8月)号と724(2014年1月)号で、さし木や組織培養における発根の検討を紹介してきました。
  その後、研究が進み、組織培養により岐阜県産少花粉ヒノキ品種益田5号(以下、「益田5号」という)の山行苗(図1)を育成できるようになりました。今回は、益田5号の培養苗育成における発根以降の技術開発と今後の課題を紹介します。

     
図1 組織培養で育成された益田5号の山行苗
図1 組織培養で育成された益田5号の山行苗

技術開発のポイント

1. セル苗化による順化

組織培養で発根した培養物を山行苗に育成するには、用土へ移植して、培養容器外の有菌かつ乾燥した環境へ適応させる順化という工程が必要です。
  当所では、これまでパーライトなどの菌の少ない人工土壌を用土に用いて、益田5号の順化を検討してきました。しかし、培養物の枯死や雑菌の発生により、次の過程に進めませんでした。そこで、用土を熱成型したヤシ殻主体の固化培地(以下、「セル培地」という)に変更して順化を行った(図2)ところ、1ヶ月程度でセル培地表面に根が発生したセル苗(図3)を獲得できました。
  その後、コンテナ苗に育成するため、ミスト室でセル苗を用いて山行苗育成を行ったところ、125日後時点で9割以上が生存していました(図4)。セル培地を使用することで、益田5号の発根した培養物を効率的に順化できるようになりました。

     
図2 セル培地を用いた順化図3 セル苗 図4 コンテナへ移植後のセル苗の発育状況
図2 セル培地を用いた順化 図3 セル苗 図4 コンテナへ移植後のセル苗の発育状況

2. 組織培養での発根にこだわらない

1. では発根した培養物を順化の対象にしましたが、未発根の培養物を順化してもセル苗を獲得できます。
  図5は、全培養物を順化した時のセル苗率(セル苗獲得数÷供試数×100)を、順化開始時の培養物に発根が有ったか無かったかに分けてみたものです。発根「有」の培養物(全体の65%)のみを順化した場合には、セル苗率は60%にとどまりましたが、発根「無」の培養物(全体の35%)からもセル苗を獲得できることから、セル苗率は85%に向上しました。
  発根「無」の状態で行う培養物の順化は、セル培地移植時の根の調整や折損に対する繊細な作業が不要になることから、労力軽減の点でも有効です。

     
図5 全培養物を順化した時の順化開始時における発根の有無別セル苗率
図5 全培養物を順化した時の順化開始時
における発根の有無別セル苗率

今後の課題

今回紹介した益田5号の山行苗は、セル苗をコンテナへ移植してから2年の育成期間を要しました。現在流通している実生のコンテナ苗は、需給調整の円滑化や生産コスト低減のため、1年生苗生産に向けた技術開発が進められており、益田5号の山行苗育成においても同様の取組が必要です。
  今後は、育成期間の短縮や前段の2.で紹介したような労力の軽減に繋がる技術開発を積み重ねることで苗生産コストの低減を図り、実用化に繋げていきたいと考えています。