ヒノキ球果害虫の省力的な防除に向けて

(岐阜県森林研究所) 大橋 章博



はじめに

スギ・ヒノキ人工林のいびつな齢級構成を是正し、持続可能な森林とするために、県では主伐再造林を推進しています。それには、苗木づくりの低コスト化が必須ですが、スギやヒノキ精英樹から採れる種子の発芽率が低いことが問題となっています(図1)。

発芽率が低くなる要因の一つに、カメムシ類による被害が挙げられます。カメムシ類が吸汁した球果は正常に発育しないため、発芽しません。

カメムシ対策としては球果への袋掛けが有効です。これは、球果の形成が始まる5月頃に目合いが1ミリ程度の網袋で枝ごと被い、カメムシの吸汁を防ごうとするものです。しかし、枝への袋掛けは枝葉の向きに逆らって行うことになるため、簡単そうに見えてなかなか面倒な作業です。おまけに、枝は2m以上の高さにあり、造園三脚を使う作業となり危険を伴います。

これに替わる方法としては殺虫剤の散布が考えられますが、カメムシの加害期間が長期に渡るため、何度も散布する必要があります。そこでより省力的な防除法として、殺虫剤の樹幹注入による防除の可能性について検討しました。

  
図1 白鳥林木育種事業地におけるヒノキ発芽率の推移
図1 白鳥林木育種事業地におけるヒノキ発芽率の推移

樹幹注入とは

薬剤を散布するのではなく、木の幹に穴を空けて注入する方法です。薬剤はやがて木全体に拡散し、虫が吸汁や食害すると死亡するというものです。この方法には次のような利点があります。@薬剤が飛散せず樹幹内に留まるので、環境負荷が小さい。A薬剤の効果が比較的長時間持続する。B作業しやすい高さに注入すればよいので、省力化につながる。

防除効果は

球果を吸汁するカメムシは何種類か知られていますが、今回はこのうち最も大きな被害をもたらすチャバネアオカメムシを対象として試験を行いました。

5月にヒノキに薬剤を注入処理し、8月に薬剤処理木と無処理木(各10本)から球果を採取し、2齢幼虫に給餌しました。その結果、10日後の死亡率は、無処理で33%であったのに対し、薬剤処理で92%と高い殺虫効果が得られました(図2)。また、10月に各処理木から採取した種子の発芽率を調べた結果、無処理で14.6%であったのに対し、薬剤処理で61.4%と4倍ほど高く、吸汁を防止できたと考えられました(図3)。

     
図2 チャバネアオカメムシに対する殺虫効果
図2 チャバネアオカメムシに対する殺虫効果
図3 各処理木の種子発芽率(処理木1本あたり400粒の種子について調査)
図3 各処理木の種子発芽率(処理木1本あたり400粒の種子について調査)

おわりに

今回の結果から、樹幹注入剤がカメムシ対策として有効であることがわかりました。

この薬剤は「毛虫類」の農薬登録はありますが、採種園で使うには「カメムシ類」への適用拡大が必要です。今年も同様の試験を行い、本薬剤の適用拡大を目指します。