一億円産業への再成長を目指して2 -組織培養による高原山椒の苗育成-

(岐阜県森林研究所) 茂木 靖和



本誌767号で、高原山椒の優良株(実の色が良い、実の収量が多いなど)の枝を材料に用いたさし木を紹介しました。ところが、優良株のなかには、枝の伸長量が年々減少し、さし木材料を確保できない個体もでてきました。組織培養なら、このような状態の株からも苗育成が可能です。

1.組織培養とは

組織培養は、さし木やつぎ木と同様、材料に用いた株の性質を受け継ぐ苗を育成できるクローン増殖技術です。培養条件を整えることができれば、優良株から培養苗を大量に育成することが可能です。
  具体的には、図1に示すように芽や種子の胚などから複数のシュート(茎と葉)を発生させ、一芽以上含むようにシュートを切り分けて再培養を行い、シュート増殖や発根を繰り返します。つまり、最初に一回、苗育成のための材料を確保できれば、その後は無菌の培養容器内で増殖させたシュートを材料にして、次々培養苗を育成できます。

  
図1 組織培養の流れ
図1 組織培養の流れ

2.圃場へ植栽する苗の育成

培養苗を圃場へ植栽可能な状態にするには、培養容器外の有菌かつ乾燥した環境へ適応させる順化(じゅんか)とよばれる過程を経る必要があります。
  今回は、10年以上シュート増殖(図2(a))を繰り返し、平成29年4月にシュート発根させた高原山椒の培養苗(図2(b))を市販のセル培地へ移植し、その上面を通気性フィルムで覆って湿度を徐々に下げて2か月間育苗すること(セル苗化)で順化させました(図2(c))。順化後のセル苗(図2(d))は、スギやヒノキでも行われているコンテナ苗として1年間育成しました(図2(e、f))。

  
図2 組織培養を用いた高原山椒優良苗の大量増殖技術
図2 組織培養を用いた高原山椒優良苗の大量増殖技術

3.試験の進捗と今後

コンテナ苗(樹高15cm、根元直径2.3mm程度)を平成30年6月に現地圃場(高山市奥日騨温泉郷)へ植栽したところ、同年11月時点で70%以上が生存していました。この結果は、同時期に圃場へ植栽した生産者の実生苗や接ぎ木苗より高い生存率でした。
 さし木材料を確保できなくなった優良株の中には、品質面と生産性で最上位の株が含まれています。今後は、この株の培養苗による大量増殖技術の開発と、早期に収穫可能な栽培株へ誘導するための施肥条件を明らかにすることで、かつて販売額一億円といわれたこの地域の山椒栽培の再成長に貢献したいと考えています。