和紙の原料コウゾの成長を、米粒サイズのヨコバイが妨げる

(岐阜県森林研究所) 片桐 奈々



和紙の原料としてのコウゾ

コウゾは本美濃紙の原料となる植物で、クワ科コウゾ属の1種です。コウゾ生産では株に春から伸びる萌芽を約1年間育成し収穫します。この1年生枝の内樹皮が和紙の原料として用いられます。森林研究所では美濃市、コウゾ生産組合と協同し、高品質なコウゾの生産技術について調査研究してきました。

コウゾの成長を妨げる害虫たち

調査を行ううちに、コウゾ生産を邪魔する害虫が複数わかってきました。

まず、ガの1種であるメイガ類です。幼虫がコウゾの葉を巻いて巣を作り(写真1)、その中に隠れて内側から葉を食害します。

  
写真1. メイガ類幼虫によるコウゾの葉の被害。矢印は幼虫が作った巣
写真1. メイガ類幼虫によるコウゾの葉の被害
矢印は幼虫が作った巣

さらに、カミキリムシ類による材の被害もみられ、株の多くに幼虫による食害痕が確認されました(写真2)。

  
写真2. カミキリムシ類幼虫によるコウゾ株の被害。矢印は,幼虫による株の食害痕
写真2. カミキリムシ類幼虫によるコウゾ株の被害
矢印は,幼虫による株の食害痕

これらよりも、現在のところコウゾ生産者が問題視しているのが、3〜4mm程度のヨコバイの1種です(写真3)。このヨコバイはストロー状の口を葉に刺し、細胞質を吸汁します。また、ヨコバイ大発生時のコウゾには縮葉が起こっていました(写真4)。このような症状はアブラムシが植物に寄生した場合にもみられ、成長が阻害されることが知られています。したがってヨコバイの大発生がコウゾの成長を妨げていると推測され、実際にコウゾ生産者は成長が良くないことを実感しているようです。

  
写真3. コウゾを加害するヨコバイ(Jacobiasca furcostylus)。写真左:矢印は葉裏に集まるヨコバイの幼虫。写真右:ヨコバイの成虫
写真3. コウゾを加害するヨコバイ(Jacobiasca furcostylus)
写真左:矢印は葉裏に集まるヨコバイの幼虫。写真右:ヨコバイの成虫


  
写真4. ヨコバイの大発生が要因と考えられるコウゾの縮葉。写真左:矢印は縮葉している様子。写真右:縮葉した新葉。特に新葉が縮葉する傾向があった。
写真4. ヨコバイの大発生が要因と考えられるコウゾの縮葉
写真左:矢印は縮葉している様子。写真右:縮葉した新葉。特に新葉が縮葉する傾向があった。

ヨコバイを防除するために

現在(2018年4月)、コウゾに使用できる殺虫剤はありません。このため、活動が休止する冬のうちに数を減らし、春以降の大発生を少しでも抑制することが防除に有効と考えられました。そこで越冬場所を調べると、ツツジ、イヌツゲ、チャノキ、カナメモチなどの半常緑・常緑樹から成虫が採集されました。このことから、越冬場所にいるヨコバイを冬の間に捕殺する、越冬場所の半常緑・常緑樹を刈り取る等により、ヨコバイの大発生を抑制できる可能性があります。