列状間伐で壮齢ヒノキ人工林の表土移動は防げるか

(岐阜県森林研究所) 岡本 卓也



はじめに

ヒノキ一斉人工林では、鬱閉した林冠を放置すると、林内が暗くなるため下層植生が衰退し、表層土壌の流出(表土移動)が発生しやすくなります。それを防ぐため、適切な時期に間伐を行い、林内を十分な明るさに保ち、下層植生を衰退させないことが重要です。

しかし現実には間伐が遅れ、下層植生が衰退している人工林があります。このような下層植生が衰退した林分では、通常の間伐を行っても再び植生を回復させるのが困難な事例も見られます。

下層植生を回復させるための間伐

衰退した下層植生を回復させる方法として、通常の間伐より高い割合で木を伐り、林内により多くの光を入れることができる列状間伐(一定の列を決め,その列内の木を全て伐採する間伐)が考えられます。列状間伐では伐採する列(伐採列)としない列(残存列)があり、それぞれの列で植生の回復状況に差が生じ、表土移動を抑制する効果が異なる可能性があります。

そこで、列状間伐が下層植生が衰退した壮齢ヒノキ人工林の表土移動に与える影響を調べるために,西濃地域で2伐5残の列状間伐をした55年生ヒノキ人工林(図1)において、間伐直後から2年間の伐採列と残存列の植被率(※)と表土移動の状況を調査しました。

  
図1.調査した壮齢ヒノキ林の状況
図1.調査した壮齢ヒノキ林の状況

列状間伐後の土砂移動状況

植被率は、残存列では2年目に若干減少しましたが、間伐直後に比べると両列とも増加していました(図2)。表土移動の状況は、両列とも年が経過するごとに減少する傾向にありました(図3)。

  
図2.伐採後の植被率の変化 図3.伐採後の表土移動の状況
図2.伐採後の植被率の変化 図3.伐採後の表土移動の状況

伐採していない残存列でも植被率が増加したのは,伐採列から十分な光が入ったためと考えられます。

以上から列状間伐は、下層植生が衰退した壮齢ヒノキ人工林の土砂移動を減少させる方法として、一定の効果を発揮できると考えられました。

おわりに

今回の事例は、伐採後2年目までの短い期間における調査結果です。残存列で2年目に減少した植被率が今後どうなるのか、伐採列の植被率は増加し続けるのか、このまま表土移動は減少し続けるのかなど、解明しなければならない点が多くあります。また、一口に列状間伐といっても、伐採列の幅や間隔などの条件は様々で、その違いについても検証が必要です。

今後は、様々な条件の列状間伐を実施した壮齢ヒノキ人工林において表土移動状況の調査を行い、表土移動の防止に効果的な列状間伐の条件について、検討を重ねていく必要があります。

※下層植生が林床を覆っている割合。下層植生の豊かさを示します。

  
図4.伐採2年目の下層植生の状況
図4.伐採2年目の下層植生の状況