列状間伐から1年後、ヒノキ人工林に生えた高木性樹種

(岐阜県森林研究所) 片桐 奈々



はじめに

近年、多様な森林づくりを目指して、針葉樹人工林から針広混交林への転換が求められています。人工林を間伐して空間を作り、そこに周囲から高木性樹種がうまく侵入、定着してくれれば手間がかからず針広混交林を作ることができます。

一方で、現在面積が最も多い壮齢人工林、特にヒノキ林は過密化が進み、下層植生が少なく表土流亡が多いといわれています。このような林床環境で間伐して、本当に高木性樹種は侵入、定着できるのでしょうか。

そこで、下層植生がほとんどない52年生ヒノキ人工林を列状間伐(2伐5残)した1年後に、高木性樹種の実生(種から発芽した幼樹)の定着状況を調査しました。

埋土種子からみる高木の定着可能性

林床で調査を行う前に、埋土種子(土壌に含まれている種子)からどの程度、高木性樹種の実生が発生するかを調べました。間伐前の林床から深さ5cmまでの土壌を採取し、その土壌から16ヵ月間、実生を発生させました。その結果、ヒノキを除いた高木性樹種は61.7本/m2発生し、そのほとんどがリョウブでした(図1)。この本数密度は他の針葉樹人工林の調査例と同程度で、調査した人工林の埋土種子は一般的な量と考えられます。

  
図1. 埋土種子から発生した高木性の実生_図2.間伐1年後に林床から発生した高木性の実生

間伐1年後の林床における高木性樹種の定着状況

では、林床における高木性樹種の実生の定着状況は実際どうだったのでしょうか。調査地は傾斜31度で、残列部分と伐列部分の両方です。ヒノキを除く高木性樹種の実生は、3.0本/m2出現しました。これは、他の針葉樹人工林での調査例よりも少なく、埋土種子から発生した実生の本数密度よりもはるかに少ない量です。さらに、林床に発生した主な種はアカメガシワ、リョウブ、カナクギノキ、カラスザンショウで、埋土種子から発生した樹種のようにリョウブばかりということはありませんでした(図2)。以上のような埋土種子からの実生と林床の実生の違いは、埋土種子由来の実生が林床に定着できていないことを示唆しています。

ここで、林床で実生が更新できていなかった理由を考えてみます。間伐後の林床は残列と伐列の両方で、光は植物の更新に十分でしたが、調査の結果、表土流亡が非常に多いことがわかりました。したがって、埋土種子が発芽しても、表土の流亡とともにその実生も流されてしまい、林床に定着できなかったと推測されます(写真)。

埋土種子から発生した実生を定着させるためには、表土の流亡を防ぐ必要がありそうですが、今後は、この結果が過密な壮齢ヒノキ人工林の一般的な傾向を示しているのかを検証するため、データをより蓄積する必要があります。また、まだ間伐から1年目の結果なので、経過観察をさらに行う必要があります。森林研究所では、今後も継続して調査を続けていきます。

  
写真.間伐1年後のヒノキ人工林の林床の様子