性フェロモンによるマイマイガの防除の試み

(岐阜県森林研究所) 大橋章博



昨年の夏はマイマイガの成虫が市街地に多数飛来し、いたる処に卵塊を産み付けたため、市民生活に支障をきたしました。今年の春は卵塊から大量に孵化した幼虫が木々の葉を食害し、被害は森林にとどまらず、農作物にまで及ぶなど大きな問題となりました。従来、マイマイガは林業害虫や農業害虫というより不快害虫として扱われることが多く、防除対策としては、卵塊の除去や殺虫剤の散布が主に行われてきました。そのため、広い面積の防除に適した方法はありませんでした。

今回、面積が広い程、防除効果が高く、環境への負荷が小さい「交信かく乱法」による防除試験を行ったので紹介します。


交信かく乱法とは

「交信かく乱法」とは合成した性フェロモンを大量に継続して放出することによって、雄がフェロモンを頼りに雌を探すのを邪魔して、交尾をできなくする方法です(図1)。結果として雌の交尾率が低下し、翌年の幼虫密度を抑えることができます。

アメリカ合衆国では1993年からマイマイガの防除対策の一つとして、交信かく乱法が実施されています。それじゃあ、日本でもそのまま使えばよいのでは・・・と思いますが、それほど単純ではありません。それは、アメリカに分布するマイマイガ(ヨーロッパ型)と日本に分布するマイマイガ(アジア型)では生態が少し異なるからです。特に問題となるのは、ヨーロッパ型の雌成虫はほとんど飛翔しないのに対し、アジア型の雌はよく飛翔する点です。雌が積極的に飛び回れば、雄と出会う機会も増え交尾阻害が起こらないことも考えられます。

図1 交信かく乱のイメージ
図1 交信かく乱のイメージ

交信かく乱は起こるか?

そこで、防除効果を確かめるため、岐阜市ながら川ふれあいの森で試験を行いました。1ha程の試験区を2か所設け、一方にはマイマイガのフェロモン剤(写真1)を設置し(処理区)、もう一方を無処理区としました。その後、両試験区にマイマイガをモニタリングするためのトラップ(写真2)を設置しました。もし、交信かく乱することができれば、処理区のトラップには雄成虫は捕獲されず、無処理区ではたくさん捕獲されるはずです。はたして結果は、無処理区では多数の雄成虫が捕獲されたのに対し、処理区では全く捕獲されませんでした。見事に、誘引阻害(交信かく乱)が起きていることが確かめられました。その後、処理区内の卵塊数を調査した結果、卵塊は1つしか確認できなかったことから、交尾阻止もできたと考えられました。

写真1 フェロモン剤
写真1 フェロモン剤
写真2 モニタリングトラップ
写真2 モニタリングトラップ

今後に向けて

今回の試験では非常に良い結果が得られました。しかし、虫の密度や森林の環境によって効果が異なることが考えられます。様々な条件下で試験を実施し、効果を検証していく必要があります。

交信かく乱法による効果がでるのは翌年です。したがって、大発生してから実施していたのでは間に合いません。マイマイガの発生には周期性があります。フェロモントラップでモニタリングを行い、大発生に至る前に交信かく乱法を実施し、虫密度を下げて、大発生を防ぐ、といった仕組みを作り上げることが必要です。